大腸 内視鏡的ポリープ切除術・内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層はくり術(ESD)

1. ポリープについて
 胃や腸にできる「いぼ」のようなものをポリープといいます。大腸のポリープのほとんどは腺腫[せんしゅ]とよばれる良性のできもの(腫瘍)です。この腺腫は自然に小さくなったり消えてしまうことは少なく、長年の間変化しないか、次第に大きくなります。問題は、大腸に発生する腺腫の中に悪性化(がん化)するものがあることです<注1>腺腫ではない過形成性ポリープ(化生性ポリープ)、炎症性ポリープなどは悪性化することはないと考えられます。

2. ポリープ摘除の必要性
 現在のところ、確実にポリープを小さくしたり消してしまう薬はありません<注2>。また、発見されたポリープが将来癌になるかならないかの判定は、現在のところ困難です。さらに、発見されたときすでに顕微鏡でわかる程度の"がんの芽"があるポリープもありますが、見た目で診断は難しいことが多い<注3>のです。検査で発見される全てのポリープを取る必要はありませんが、ある程度大きな(5mm以上)ポリープで腺腫と考えられるものは摘除した方がよいというのが現在の一般的な考え方です。万一、すでにがん化していても、がんが粘膜に留まっている段階であれば、内視鏡的に完全切除ができれば根治的治療となります。

<注1>腺腫のがん化
 がん化の頻度については詳しくは分かっておりません。ただ、大きくなるものはがん化の危険性が高いと考えられます。また、大腸がんの中には当初から"がん"として出現するものがあり、注意が必要ですが、早く発見できれば腺腫と同様の内視鏡的切除で対処可能です。

<注2>ポリープを小さくしたり消してしまう薬
 最近、ある種の抗炎症剤(鎮痛解熱剤)を内服していると、大腸腺腫が小さくなったり、消失することが分かってきました。しかし、まだ臨床研究段階であり、大腸腺腫が100個以上も発生する家族性大腸ポリポーシスの方以外には適応されていません。

<注3>色素内視鏡検査・拡大内視鏡検査による質的診断
 ポリープ表面の模様(ピット・パターンと呼ばれます)を詳細に観察すれば、腺腫かどうかがある程度分かります。この場合、青色もしくは紫色の色素をポリープに降りかけると、ピット・パターンがよく認識できるようになります。さらに、拡大して観察できる拡大内視鏡というスコープを使えば、がん化している腺腫を診断できる場合があります。

3. 内視鏡的ポリープ切除術・内視鏡的粘膜切除術の安全性
 大きさによりますが、大腸ポリープの多くは内視鏡的に摘除できます。内視鏡的にポリープを取るときは、スコープの中を通して細いワイヤー(スネアーといいます)を送り込みます。このワイヤーでポリープの付け根をしばり、締め付けながら同時に弱い電気(高周波電流)を流して焼き取ります。これを内視鏡的ポリープ切除術または内視鏡的ポリペクトミーといいます。また、隆起の丈が低くてワイヤーがかかりにくい時は、粘膜の下に食塩水など<注4>を注入して、隆起を高くさせてワイヤーをかけて切除します。これを内視鏡的粘膜切除術Endoscopic mucosal resection; EMR)といいます。 このとき通常は麻酔をかけなくても痛みがありません(痛覚を伝える体表の神経とは異なり、自律神経が分布しているからです)。ある程度電気を流し焼き固めないと出血しますが、焼きすぎると穿孔[せんこう:腸に孔があくこと]を起こすので、ちょうど良い具合を手加減で行う必要があります。

<注4>粘膜下層に注入する薬
 粘膜に限局する病変を膨隆させてスネアーがかかりやすくし、過度の熱損傷が消化管壁深部に及ばないようにするために、いろいろな液体が用いられてきました。最も多く使われてきたのは生理的食塩水です。注入液に求められる要件は、1) 組織障害が少なく生体に安全であること、2) 丈の高い適切な膨隆が形成できること、3) 適度に高周波電流を通しやすいこと、4) 内視鏡的処置が終了するまで膨隆を保持できること、などです。病変の大きさや処置時間などにより、生理的食塩水、高張食塩水、10%グリセリン液製剤、ヒアルロン酸ナトリウム液などが選択されて使われています。平成19年10月から内視鏡的粘膜切除術専用のヒアルロン酸ナトリウム液製剤が発売になりました。

 内視鏡的粘膜下層はくり術(Endoscopic submucosal dissection; ESD):最近、内視鏡的粘膜切除術を効果的に行う専用の高周波発生装置や種々の器具が開発され、従来では切除が難しかった平坦な病変(スネアーがかかりにくい)や一括で切除できなかった大きな病変も切除が可能となってきました<注5>。粘膜の下に食塩水など<注4>を注入して病変を浮かせたのち、スネアーの代わりに高周波メスで粘膜を切開し、粘膜の下(粘膜下層)の剥離[はくり]を進めていく方法です。高周波メスとしてIT[アイティ] ナイフ、フックナイフ、フレックスナイフ、フラッシュナイフなど種々の器具が考案されています。ただ、狭い管腔で遠隔操作にて高周波メスを操るのは技術的に難しく、出血や穿孔[せんこう]などの合併症が起こりやすいので、必要性や危険性について十分説明を受けて下さい。胃では粘膜下層はくり法が保険請求できるのですが、大腸ではまだ臨床研究の段階で、費用面からも内視鏡的粘膜切除術と同じ扱いになり、器具代などは病院負担で行われているのが現状です。

<注5>一括切除の必要性
 ここでいう一括や分割とは、治療時に病変を一回の手技でごっそり取るか(一括)、または同じ治療時に病変を分割で取るかということです。日を改めて分けて取るという意味ではありません。完全に切除できれば一括で切除しなくても、分割で取っても同じでしょう。しかし実際には、分割にした場合はわずかな病変が残ってしまう(遺残[いざん]といいます)ことがあります。腫瘍性病変であれば良性でも悪性でも遺残すれば再発します。再発しても再度内視鏡的治療で完全切除できればよいのですが、悪性腫瘍(がん)の場合は、根治的治療をし損なうと、がん細胞が深く浸潤したり、転移を起こすなどやっかいなことになります。したがって、一括切除が必要な病変とは、分割切除をすると、がん化している部分を細切れにしてしまう危険性のある病変です。腺腫の一部ががん化していても、その部位が特定できて1回の手技で取りきれる場合は、残りの腺腫の部分を分割で切除しても比較的安全です。1回の内視鏡的粘膜切除で安全に切除できる大きさは約2cmとされています。したがって、3cmを超える大きさの腫瘍性病変を一括切除するには、内視鏡的粘膜下層はくり術(ESD)の手技が必要となります。

 ポリープ切除術や内視鏡的粘膜切除術の際の偶発症のほとんどは出血と腸穿孔です。切除時に通常、ごく少量の出血がみられます。出血は自然に止まる場合がほとんどですが、止血処置が必要なことがあります。止血処置はその場で内視鏡下にクリップなどを用いて行います。問題となる出血と穿孔[せんこう]の頻度は、日本消化器内視鏡学会が行った全国集計では、18,668件中、それぞれ67件(0.36%)、37件(0.2%)と報告されています。ただし、危険度は病変の大きさや形状などにより異なると考えられます。
 

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