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1.研究
テーマ
Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究   2)遺伝性心筋症の原因機序解明   3)神経体液因子に関する研究   4)循環器イメージングに関する研究   5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究 6)糖尿病性腎症の病理組織の解析

大規模臨床試験
1)JPAD研究  2)造影剤腎症に関する全国コホート研究  3)AMIのコホート研究  4)脳血管イベントに対する研究  
2.研究業績   3.留学システム 4.プレスリリース


Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究

 慢性腎臓病(CKD)が心血管疾患の独立した危険因子であることは明らかとなっていますが、 詳細な分子メカニズムは依然として明らかになっていません。われわれはこれまでに VEGFファミリーの一つである胎盤増殖因子PlGF(Placental growth factor)とその内因性アンタゴニストである可溶型Flt-1(sFlt-1)と 循環器疾患との関連に注目して研究を行ってきました。sFlt-1はPlGFをリガンドとする膜受容体Flt-1の同一遺伝子からalternative splicingで産生される 細胞外ドメインのみで構成され,血漿あるいは細胞間液中でVEGFあるいはPlGFと結合することにより、これらのリガンドが膜型Flt-1受容体等へ結合すること を阻害して、Flt-1活性化に対する内因性の拮抗物質として働きます。われわれの研究の端緒はヒトで急性心筋梗塞の際に骨髄から血管内皮前駆細胞の遊走を促す物質として、PlGFが虚血心から 分泌されていることを同定したことにあります【Iwama et al. J Am Coll Cardiol: 2006:47:1559-67】。

1) 慢性腎臓病(CKD)におけるsFlt-1発現低下とその動脈硬化症の発症ならびに進展促進作用の証明
 しかし、虚血急性期には血管新生因子として生体にプラスに働くPlGFですが、慢性期では マクロファージなど炎症細胞の遊走を惹起し、動脈硬化の発症・進展とマイナスに作用します。われわれは 慢性腎不全(5/6腎摘)を合併させた動脈硬化症自然発症マウス(ApoE-/-マウス)では肺や腎組織におけるsFlt-1の遺伝子発現量が低下し、 胸腹部大動脈における動脈硬化プラーク面積は有意に増大するが,このマウスにrecombinant sFlt-1を反復投与することによって動脈硬化病変の進展を抑制できました【Onoue et al. Circulation:2009:120:2470-7】。


また、sFlt-1-/- ApoE-/-マウスはsFlt-1+/+ ApoE-/-マウスに比して 胸腹部大動脈における動脈硬化プラーク面積と大動脈弁輪部のマクロファージ浸潤が有意に増大しました。 マウスのみならず、ヒト腎組織でもsFlt-1遺伝子発現量は腎機能障害の重症度に比例して減少していることを確認しました。

2) sFlt-1とヘパリン負荷試験の開発とその臨床的意義の解明
 前述のように腎機能低下状態では組織におけるsFlt-1遺伝子発現量は低下していますが、ヒトの血中sFlt-1濃度は腎機能障害につれて逆に上昇するという 組織のsFlt-1遺伝子発現と相反する結果が得られました。この矛盾を検討した結果、血中sFlt-1濃度は少量のヘパリン投与前後で著明に変動することが 原因であることがわかりました。すなわち、血中sFlt-1濃度は、ヘパリン投与前には腎機能の低下に並行して上昇するが、ヘパリン少量(0.4IU/kg)投与後5分では、 血中sFlt-1濃度は腎機能の低下に並行して低下していました。これらより、ヘパリン投与後の血中sFlt-1濃度の方が組織での産生量とリンクしていることが示唆されました(下図) 【Matsui et al. Kidney int:2014:85:393-403】。
血管内皮細胞の培養実験において、ヘパリンの添加は上清中sFlt-1濃度を上昇させましたが、sFlt-1mRNA発現量を変化させなかったことから、すでに血管細胞外基質に結合している sFlt-1をヘパリンが血中へ遊離させると考え、sFlt-1の総量を推定するためには、血中を循環しているsFlt-1の濃度ではなく、ヘパリン負荷後に細胞表面から一過性に遊離した sFlt-1濃度を測定する方が妥当であることを見出しました。進行したCKD症例、例えば透析患者などでは体内のsFlt-1総量が著明に減少しており、それはすなわち相対的なPlGF過剰 状態にあると考えます(下図)。

このことから可溶性Flt-1が慢性腎臓病で低下しており、その低下が動脈硬化の進展に重要であることが明らかとなりました。 また、透析患者を含む慢性腎不全の臨床データからも、血中sFlt-1の低下と血中PlGFの増加が動脈硬化の進展に重要であり、 その予後に関連していることも明らかになっています【Matsui et al. J Am Soc Nephrol:2015:26:2871-81】。 われわれは動脈硬化進展作用を有するPlGFとその防御因子であるsFlt-1の均衡が動脈硬化疾患の発症予防に重要であり、 CKDではこの均衡が崩れているため、動脈硬化疾患の発症率が高くなっている可能性が高いと結論づけました。

3) 圧負荷心不全におけるsFlt-1の意義
日常臨床でCKD患者ならびに透析患者はしばしば圧負荷心不全で救急搬送されます。 そこで、われわれはCKDで低下するsFlt-1は圧負荷心不全にどのような役割をなしているのかを検討しました【Seno et al. Hypertension in press】。 sFlt-1-/-マウスに横行大動脈縮窄術(TAC)を施行し、圧負荷誘発心不全モデルを作成したところ、wild-typeマウスに比して 心肥大の程度が強く、心機能が有意に低下するとともに、死亡率も有意に高く、その死因は肺水腫でした。 図1に示しますように、sFlt-1-/-マウスのTACモデルの心筋ではマクロファージの浸潤度、線維化の程度もより重症でした。


また、マクロファージから産生・分泌されるケモカインの1つであるMCP-1もノックアウトマウスの心筋内で発現が亢進しておりました。 そして、sFlt-1-/-マウスのTACモデルにMCP-1抗体を投与すると、心筋のマクロファージ浸潤や線維化を抑えることができました(図2)。


以上より、CKDで見られるPlGF・sFlt-1不均衡に圧負荷が加わると、マクロファージの遊走・浸潤が促進され、 そのマクロファージの産生するMCP-1が心筋の肥大や線維化を惹起した結果、心不全を発症させる可能性があることを証明いたしました(図3)。


心腎連関の新規治療法の開発に繋げるため、今後も当科ではPlGF・sFlt-1を中心とした心腎連関の臨床ならびに基礎的研究を継続していく予定です。



Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究   2)遺伝性心筋症の原因機序解明   3)神経体液因子に関する研究   4)循環器イメージングに関する研究   5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究 6)糖尿病性腎症の病理組織の解析
大規模臨床試験
1)JPAD研究  2)造影剤腎症に関する全国コホート研究  3)AMIのコホート研究  4)脳血管イベントに対する研究


2)遺伝性心筋症の原因機序解明
当科では心筋疾患を、臨床病理組織の読影からその分子メカニズムやゲノム情報に至るまで幅広い解析を行っています。 当院では年間心筋生検数は関連病院含めて100例を超えております。その臨床所見をもとにハーバード大学や 東京大学・大阪大学・浜松医科大学などとの共同研究で遺伝性心筋症発症のメカニズムの解明ならびに新規治療法の開発に取り組んでいます。 また、斎藤教授を班員とする厚生労働科学研究班事業として他大学の共同研究者とともに心筋疾患原因遺伝子の解析を次世代シーケンサーを用いて行っています。 これにより、心筋疾患の日本人における遺伝子表現型関連を明らかにし、来るべきテーラーメード医療の基礎となるデータを蓄積しています。
遺伝性心筋症を呈する疾患の一つであるFabry病は、糖脂質を分解する酵素αガラクトシダーゼが欠損することにより、 その基質であるグロボトリアオシルセラミドが血管内皮細胞、平滑筋細胞、神経節細胞などに蓄積し、心筋症を始め腎疾患、眼・皮膚・神経症状などを呈する疾患です。 Fabry病の診断において、酵素活性を証明すること、遺伝子異常を証明することと並んで組織へのセラミド沈着を証明することが重要ですが、 セラミドの組織沈着を直接証明することは困難でした。質量顕微鏡法を用いた心筋組織解析を適用することにより、Fabry病の患者では構成要素の脂肪酸組成の 違いによる分子量の異なる様々なセラミドが心筋に分布していることを同定することができました(図1)。



拡張型心筋症(DCM)は、特に誘因なく心筋収縮能が低下し、重症の心不全、不整脈や突然死を来す疾患ですが、 DCMの約3割には、常染色体性優性遺伝形式に従う家族歴が認められることが知られております。 これまでの研究で多くのDCM原因遺伝子が明らかになっていますが、われわれはその1つである核膜の構成要素であるラミンA/Cの遺伝子に着目しました。 ラミン異常が原因の家族性DCMは約8%にあるとされ、また房室伝導異常を伴うDCMの約1/3にラミン遺伝子異常が関与していると考えられております。 現在、われわれはラミンノックアウトマウス(図2)を用いて、拡張型心筋症の発症機序の解明および新規治療法の開発を試みております。



また、透析心やたこつぼ心筋症の発症分子メカニズムの解明にも取り組んでおり、その成果は近年高い評価を受けております。


Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究   2)遺伝性心筋症の原因機序解明   3)神経体液因子に関する研究   4)循環器イメージングに関する研究   5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究 6)糖尿病性腎症の病理組織の解析
大規模臨床試験
1)JPAD研究  2)造影剤腎臓症に関する全国コホート研究  3)AMIのコホート研究  4)脳血管イベントに対する研究


3)急性心筋梗塞の病態解明に関する研究
急性心筋梗塞の予後は,カテーテルインターベンション(PCI) によって飛躍的に改善しました.しかし,広範囲に壊死した心筋に起因する うっ血性心不全と慢性期の死亡はいまだ大きな問題として残されています. 心筋梗塞後の長期予後の改善には,冠動脈硬化の進展抑制, 梗塞後左室リモデリングの抑制,さらに左室収縮能の改善などの統合的な 治療を行う必要があり,最近では再生医療を応用した新しい治療の開発に 期待がかかっています.  当研究室では,心筋梗塞後の治癒機転および 動脈硬化症の進展の機序の解明をテーマに研究を行なっています. 急性心筋梗塞患者においては様々なサイトカインが心臓で産生され、 特に、梗塞部心筋,特に梗塞部の血管内皮細胞で産生されるPlGF(胎盤由来成長因子)が 慢性期の心機能の改善に寄与しており、さらに血管内皮前駆細胞(EPC)の末梢血への 遊離が一部関与している可能性があることが判りました (Iwama H et al. J. Am. Coll. Cardiol. 2006; 47: 1559-67) (Figure 1). 現在この知見に基づき,動物実験モデルを用いて,心筋梗塞発症時におけるPlGFの発現機序とその調節機構, さらに合成ヒト型PlGF蛋白による心筋梗塞の治療を目的とした研究をすすめています.   また,冠動脈形成術後の再狭窄病変や全身の動脈硬化性血管障害が、 心筋梗塞の発症後にどのような影響を受けるかについても検討しています。 私たちがマウスに心筋梗塞と大腿動脈の血管障害を同時に作成することで得た結果では、 心筋梗塞群では非心筋梗塞群に比して,血管障害部の内膜肥厚が増強しており、 その機序として心筋梗塞巣に発現するTNFαが、血管傷害部位に高発現するTNF 受容体に働き同部位にIL−6発現を増強させることが明らかになりました (Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2006;26: 2083-9) (Figure 2)。   さらに,臨床データをもとにした検討では、奈良県立医科大学輸血部研究室との共同研究で、 急性心筋梗塞発症における血栓形成機序の解明にも取り組んでいます。 急性心筋梗塞の冠動脈内血栓は,破綻したプラークにフォンウィルブランド因子(VWF) が結合し,さらにVWFと活性化された血小板が結合して血小板血栓が形成されます. 血小板血栓を基盤としてフィブリンなどが結合して(フィブリン血栓)血栓が増大し 冠動脈を閉塞すると考えられています.この急性心筋梗塞の発症に大きな役割を果たすVWFは, 急性心筋梗塞では増加していることがいくつかの論文で報告されています. 当科では,急性心筋梗塞急性期・慢性期におけるVWF,VWFと血行再建術との関連, VWFマルチマーの解析,VWFの特異的切断酵素であるADAMTS13活性との関連などを研究しています.   以上のように,臨床での問題に解決の手がかりを与えられるような 研究を今後も続けていきたいと考えています.

Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究   2)遺伝性心筋症の原因機序解明   3)神経体液因子に関する研究   4)循環器イメージングに関する研究   5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究 6)糖尿病性腎症の病理組織の解析
大規模臨床試験
1)JPAD研究  2)造影剤腎臓に関する全国コホート研究  3)AMIのコホート研究  4)脳血管イベントに対する研究


4)循環器イメージングに関する研究

我々は,従来からの心臓超音波検査や核医学検査に加え,心臓CTやMRIを積極的に利用し,循環器疾患の病態生理を非侵襲的に明らかにしています.

1.心臓CT  128スライス Dual Source CT「SOMATOM Definition Flash, Siemens」を用いて心臓を撮影しています. 我々は,Dual Source CTが,最も空間分解能の高い血管内イメージングである OCT(Optical Coherence Tomography)と比較することによって,冠動脈プラークの 検出能・鑑別能に優れていることを報告しました(図1)(Int J Cardiol. 2011).

また,Dual Source CTによって,ロスバスタチンによるプラーク退縮効果が評価可能であることを報告しました(Circ J. 2011).  最近では,世界に先駆けて,Dual-energy CTによるMono-energetic imagingを 心臓に応用し報告しています(http://www.innervision.co.jp/suite/siemens/supplement/1111/s503/index.html) (Int J Cardiovasc Imaging. 2012).  また,冠動脈評価だけでなく心筋性状評価にも力を入れております(図2).

2.心臓MRI  新しいシーケンスの開発に取り組んでいます.Black-blood echo-planar imaging (Low b-value diffusion-weighted imaging)による心筋浮腫の評価(Heart Vessels. 2010),Dual gradient-echo in-phase and opposed-phase imagingによる 心周囲脂肪(Acta Radiol. 2011)や心筋の脂肪変性評価(Magn Reson Med Sci. 2010)について報告しています(図3).

また,陳旧性心筋梗塞に伴う乳頭筋梗塞の意義について報告しています(Int J Cardiol. 2011).



Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
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5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究

肺高血圧症は右心不全を合併し予後不良な疾患であります。 肺高血圧症の病因としてTGFβスーパーファミリーのALK1やBMPR2受容体を介するシグナルの異常が報告されています。 肺高血圧モデル動物の肺で発現が低下している遺伝子を解析した結果、 我々はTMEM100という新規遺伝子に着目しました。TMEM100はTGFβスーパーファミリーの リガンドであるBMP9とBMP10刺激からALK1/BMPR2受容体複合体を介したその下流で発現が 調節されていることがわかりました。TMEM100の生体内での機能を調べるために TMEM100遺伝子を欠損(ノックアウト, KO)したマウスを作製しました。 TMEM100 KOマウスは血管ネットワークの形成異常のため、胎生 (E) 11日前後に子宮内で 死亡することが判明しました(図AとB) 。

TMEM100 KOマウスの動脈では、本来の動脈に 発現すべきマーカーの発現が低下しており、動脈への分化が障害されていることがわかりました。 また、TMEM100 KOマウスでは動脈の形成に重要なNotchシグナルやAktシグナルといわれる 情報伝達系が障害されていました。TMEM100が機能しなくなると、これらの情報伝達系に 異常が起こり動脈への分化・形成が異常になることがわかりました。 今回の研究からTMEM100はALK1/BMPR2受容体の下流で機能する動脈形成に必須な 新しい血管新生制御分子であることを見出しました。ALK1受容体の異常は 遺伝性出血性毛細血管拡張症というヒトの血管病の発症に関与します。 また、上述にようにALK1やBMPR2受容体の機能異常は肺高血圧症の発症にも関わります。 今後はこれらの血管病とTMEM100の因果関係が確認できれば、 治療が難しいとされるこれらの病気の治療法の開発にも一石を投じる可能性があると考えられます。


Bedside to Bench and Bench to Bedside 研究
1)心腎連関の臨床的・基礎的研究   2)遺伝性心筋症の原因機序解明   3)神経体液因子に関する研究   4)循環器イメージングに関する研究   5)新しい血管新生制御分子TMEM100の研究 6)糖尿病性腎症の病理組織の解析
大規模臨床試験
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6)腎線維化の分子機序の解明

〜慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease(CKD))における心血管障害の克服を目指して〜

近年,慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease (CKD))という疾患概念が提唱され, CKDは透析の予備軍であるばかりでなく,心臓血管障害の発症(図1)や 死亡などの予後を規定する重要な因子であることが明らかとなり, その対策が緊急の課題となっております.

慢性腎不全や末期腎不全(透析)時には高度の血管の石灰化病変が出現することが 知られています.その血管の石灰化は心血管系疾患や生命予後に 大きく関与することが数多く報告されており,最近,血管石灰化が重要視されてきています. しかし,この血管石灰化とういう病態は,カルシウム・リン代謝異常が大きな原因とされていますが, 未だその詳細な発症・進展機序は不明であります.

 最近,老化制御蛋白としてKlotho蛋白が注目されています. 1997年に黒尾氏らにより同定された蛋白で,Klotho遺伝子欠損マウス(図2)は, 成長障害,骨粗鬆症,異所性石灰化や血管石灰化などが出現し, 老化のモデルマウスとして注目されています.このKlotho蛋白は腎臓,副甲状腺,脳脈絡膜で 産生されることが確認されています.腎臓では,遠位尿細管に特異的に発現し(図3), カルシウム・リン代謝に密接に関与すると考えられています. また,リン代謝調節蛋白としてFGF23蛋白が2001年に島田氏らにより報告されました. FGF23遺伝子欠損マウスもまた,Klotho遺伝子欠損マウスと同様に血管石灰化を呈することから, Klotho蛋白と協調して血管石灰化の発症・進展に関与するのではないかと注目されています. しかし, CKDにおけるカルシウム・リン代謝異常とKlotho蛋白やFGF23蛋白との関係, また,血管病変・血管石灰化への関与は未だ不明であります.

  私たちは,各種腎炎例,腎不全例,および糖尿病例を対象とし, 4,000例を越える腎生検標本を用いて腎臓でのKlotho発現の動向と腎病変, カルシウム・リン代謝との関係,およびFGF23蛋白の動態との関係を臨床病理学的に検討しております. さらに,モデルマウスを用いてKlotho蛋白・FGF23蛋白と血管石灰化病変との関係を解明し, 腎不全例での血管石灰化の発症・進展機序の解明に繋げたいと考えております.

<図1>
CKDは心血管障害のrisk factorである

<図2>
Klotho遺伝子欠損マウス

<図3>
Klotho蛋白は遠位尿細管上皮に発現する.




大規模臨床試験
JPAD研究

 アスピリン(アセチルサリチル酸)は優秀な解熱鎮痛剤であるだけでなく、 狭心症や心筋梗塞、脳梗塞の二次予防に必須の薬剤です。 低用量アスピリンが心血管疾患の二次予防に有効とされるのは過去の臨床試験の成果ですが、 アスピリンが安価であることもあって、一次予防にも有効であろうと考えられるようになりました。 1989年、米国男性医師22,071人を対象にアスピリンの 心血管疾患一次予防効果を目的とした大規模臨床試験(Physicians’ Health Study) においてアスピリンの有効性が示されたことを皮切りに、 複数の大規模臨床試験が実施されその有効性が示されました。 一方で、糖尿病患者はFramingham研究などの疫学研究から心血管疾患の 高リスク群であることが知られていたため、アスピリンは当然有効であろうと考えられました。 事実、本邦を含む各国の心血管疾患一次予防のガイドラインにおいて、 糖尿病患者に対する低用量アスピリン投与が推奨されていました。 しかしながら、これまでに糖尿病患者を対象としてデザインされた大規模臨床試験は存在しませんでした。  奈良県立医科大学第1内科では、熊本大学循環器内科や 日本全国の実地医家の先生方と協力して、心血管疾患の既往のない 2型糖尿病患者2,539人を対象に、「糖尿病患者において低用量アスピリン療法が 本当に心血管疾患一次予防効果を有するのか」を検証すべく無作為対照試験 (Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for Diabetes Trial [JPAD研究]) を行いました。2002年に開始したJPAD研究は2008年に一旦終了し、 その結果は四大医学雑誌の一つであるJAMA誌に報告しました (Ogawa H, Saito Y et al. JAMA 2008; 300: 2134-41)。 JPAD研究の結果、低用量アスピリンは心血管イベントを抑制する傾向を 認めるが統計学的な有意性は認めないという当初の予想に反した結果でしたが、 その結果は多くの論文に引用され評価されるとともに、 各国のガイドラインに影響を与えました。さらにサブ解析では 腎機能の低下している群やインスリン治療を行っている群といった 高イベント群において、アスピリンが一次予防効果を有さないという結果が 示されています。サブ解析ですのでその解釈には注意が必要ですが、 リスクの集積した糖尿病患者にはアスピリンの効果が乏しいのかもしれません。 JPAD研究の成果は、現在も参加各施設から世界に発信されています。 また、2008年以降はJPAD2研究として、 「JPAD研究参加者を合計10年間追跡する観察研究」を実施しています。 JPAD2研究ではアスピリンの長期効果を評価するだけでなく、 日本人2型糖尿病患者の自然史や糖尿病薬や降圧薬の心血管疾患発症に 及ぼす影響について解析を進めていく予定です。

【図表・写真は準備中です】

造影剤腎臓症に関する全国コホート研究

造影剤腎症とは「他には原因がないのに 造影剤の血管内投与後3日以内に起こる腎機能障害で、血清クレアチニンが25%以上、 あるいは0.5mg/dL以上の増加」」(欧州泌尿生殖器放射線学会)と定義されています。 発症機序はまだ不明な点が多いですが、造影剤の尿細管上皮細胞への直接毒性と 腎血流の低下による腎髄質虚血が主要な機序であると考えられています。
造影剤腎症を発症した患者は、腎機能予後、生命予後も不良でることが報告されており(Figure1)、 腎機能が低下した患者では造影剤を用いた検査・治療を控える傾向があります。 しかし、循環器疾患を診断・治療するうえで造影剤を用いた検査・治療は必要不可欠であり、 造影剤腎症は循環器疾患を診療していくうえで重要な臨床問題になってきています。   ところが、我が国においては造影剤腎症の発症頻度の実態に関しては不明な点が多く、 疫学データが不足しているのが現状です。
以上の点を鑑み、奈良医大循環器・腎臓・代謝内科が中心となって 全国レベルで冠動脈造影検査(CAG)および経皮的冠動脈形成術が実施された 約2000人の患者を対象に @わが国のCAG検査に伴う造影剤腎症の発症頻度、 特に腎機能別の発症頻度の把握、ACAG翌日の血清クレアチニン値の変化による 造影剤腎症発症予測の可能性の検証、さらにB造影剤腎症症例の予後の把握 (1年後の腎機能の変化と予後)を、目的に前向き観察研究を行っています。

【参可施設】
奈良医大関連施設(県立三室病院、県立奈良病院、市立奈良病院、済生会吹田病院、大和橿原病院)、 北海道大学、筑波大学、名古屋大学、日本大学、熊本大学循環器内科とその関連病院の全国50か所のカテーテル施行施設。

AMIのコホート研究

2005年から心臓カテーテル検査を実施している 関連病院を中心として急性冠症候群の症例をインターネットで登録する Nara Cardio-Renal stationを立ち上げました.昨年からはセキュリティーなどの問題から off line化し,詳細に患者背景,カテーテル手技内容,予後などを登録しています.
 現在は当院に2005年1月から2011年3月までに当院に入院した急性心筋梗塞の症例約400例を解析中です. 入院後6か月以降生存をした患者での死亡率は約9%でした.他の大規模臨床試験とは遜色ない結果ですが, 奈良ならではの患者背景や投薬の違いがどのように予後に寄与しているかさらに詳細に検討中です.  JACCSやOACISなどの大規模臨床試験のように,虚血性心疾患に関して奈良ベースのデータを発信し, 急性心筋梗塞治療をより向上させることができることを願い今後もたゆまぬ努力を続けていきたいと思います.

脳血管イベントに対する研究

当教室では,脳血管疾患の予防についての臨床試験を行っています.

脳血管疾患を予防することは,患者様本人の生命・Quality of Life(QOL)の向上だけではなく, ご家族や社会全体の介護負担や医療費・介護費用の軽減にもつながります. わが国では欧米とは異なり脳血管障害,特に無症候性脳梗塞(SI)や 穿通枝梗塞(ラクナ梗塞)の発症率が高く,それらは症候性脳血管障害の危険因子であり 認知症の原因になることが明らかにされています.これらの予防には, 老年者高血圧の降圧管理が重要です.高齢者高血圧症所例を対象にどの薬剤が 脳血管イベントの発症抑制に一番効果的かを検討する臨床研究を始めております。 方法は,エントリー時とその2年後にMRIおよび認知機能障害を早期に発見できる MMSE(Mini-Mental State Examination)を施行し,2年間の認知機能低下, 脳虚血所見の進行,および新たな脳梗塞の発症を検討いたします. 現在300人以上の患者様にご協力いただいており,600人のエントリーを目指しています. この臨床試験は,奈良県立医科大学の臨床試験審査委員会の審査を経て承認されております。


奈良県立医科大学循環器・腎臓・代謝内科(第1内科) 〒634-8522 奈良県橿原市四条町840 TEL:0744-22-3051(代表)
大学TOPTOP教授挨拶医局スタッフ紹介前期・後期プログラム
臨床活動の紹介研究活動の紹介病診連携
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