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循環器病/狭心症

狭心症は,心臓自身に血液を送る血管(冠動脈という名前の血液を通すパイプ)の内腔が狭くなることによって,胸部不快感,胸部圧迫感,胸痛,動悸,息切れ,冷汗などの症状がでる病気です.パイプが狭くなる原因には主に2つあります.ひとつは,高コレステロール血症,高血圧,糖尿病,喫煙,遺伝的な背景などが原因となって,パイプの壁にコレステロールなどが沈着して内腔が狭くなり血液が流れにくくなるタイプ,あとひとつは,普段は正常なパイプが,喫煙,ストレス,その他の不明な原因で,一時的にけいれんを起こして,狭くなるタイプです. いずれの場合でも症状は似ていますが,治療法は異なります.上に述べた症状が初めてでた場合,頻度が多くなったり,症状の強さが増してくるような場合には,できるだけ早期に(パイプがつまる前に)治療を開始する必要がありますので,近くの循環器専門医を受診してください.

心筋梗塞

心筋梗塞は,心臓自身に血液を送る血管(冠動脈という名前の血液を通すパイプ)がつまってしまい,下流にある心臓の筋肉の一部分が酸素不足のために死んでしまう病気です.心筋梗塞に罹られた患者さんの約半数の方は突然の発症の前に何の前触れもなかったと,残りの半数の方は発症前に狭心症の症状を感じていたと言われます.心臓のまわりのパイプがつまると,数分以上続く胸痛,胸部圧迫感,呼吸困難,吐き気/嘔吐などの症状が出現し,まれには心臓が急に止まってしまうこともあります.
治療は,一刻も早くつまったパイプの流れをもう一度回復させることです.症状などから心筋梗塞の発症が疑われるときには,救急車を依頼して循環器の専門病院を受診することが大切です.当院では,緊急入院されて治療を受けた心筋梗塞患者さんの9割以上が2週間以内に退院し,多くの方が日常生活に復帰されておられます.


心不全

心臓は,胸の真ん中にある骨(胸骨)の下にあり,拳くらいの大きさの臓器で,全身の臓器や筋肉に血液を送るポンプの働きをしています.心不全とは,心臓のポンプの作用が十分発揮できなくなった状態をいいます.心筋梗塞でも,弁膜症でも,心筋症といわれる病気でも,病気の状態が悪化すると,この心不全に陥ります.はじめは,坂道や階段を上るとき,重い荷物をもったり,布団の上げ下ろしなどをしているとき,あるいは夜寝るときに上を向いて横になると「息苦しい」「息づかいがいつもより激しくなる」などという症状がでることが多いのです.心不全は,早期に治療を開始すると,症状が全くなくなってしまうこともありますが,放置すると急激に症状が悪化して,生命の危険が高くなる場合もあります.したがって,このような症状があるときは,まず,かかりつけの診療所あるいは近隣の病院の内科で診察を受けられることが大切です.このような心不全に陥るのには原因があるため,診察および必要な検査により原因疾患がわかり,適切な治療に結びつけることができるからです.心不全あるいはその原因疾患の診断をするための検査には,心電図や胸部レントゲン撮影,心臓超音波検査(心エコー)などの画像検査のほか, BNPなどの心臓にかかっている負担を知らせてくれる物質を血液検査で測定することも含まれます.心臓の治療には,心臓の負担を軽くして心臓が働きやすい体内の環境をつくる効果的なお薬も多種ありますし,塩分制限などの食事療法が効果を発揮することもあります.一方,原因疾患によっては,カテーテルを用いた治療や外科手術でないと治らないものもありますが,まず内科の診察を受けることからすべてがはじまります.かかりつけの診療所や病院で,専門的治療が必要とされた場合は,当科を受診されましたら主治医が詳しく説明させていただき,必要な治療を行わせていただきます.



不整脈

心臓は規則正しく拍動することによって全身に血液を送っています.しかし,いろいろな原因で心臓の拍動が乱れることがあります.これが不整脈です.この「心臓の拍動の乱れ」には,拍動の間隔が一定でなくなる状態だけでなく,拍動が一定でも極端に速い場合や遅い場合も含みます.不整脈の中には非常にたくさんの種類があり,また放置してよいものから早急に治療が必要なものまで様々です.
<不整脈の症状>
動悸(胸がドキドキする),脈が飛ぶなどの症状が多いのですが,なかには目の前が暗くなる,意識がなくなるといった症状が出現する不整脈もあります.強い動悸を感じる場合や意識がなくなる場合は早く適切な治療を受ける必要があります.
<不整脈の検査>
通常の心電図の他に,24時間心電図,運動負荷心電図,心臓超音波検査(心エコー)などは,不整脈の診断や原因の特定,治療の必要性などを調べるのに大変役に立つ検査です.いずれも特に苦痛はありません.さらに詳しい検査が必要な場合には入院して心臓電気生理検査や心臓カテーテル検査などが必要なこともあります.心臓電気生理検査は,心臓内に電極カテーテルと呼ばれる細い管を入れて不整脈の原因や程度などを調べる検査です.
<不整脈の治療>
健康診断などで偶然発見される不整脈は,特に治療を必要とせず,経過を見るだけで十分なものがほとんどです.動悸などの症状を伴う場合や不整脈自体がある程度重症の場合は,不整脈を抑えるお薬を飲んでいただくこともあります.不整脈の出現にはストレスや不安などの精神状態も影響しますので,安定剤などを飲んでいただくこともあります.
また,脈が極端に遅くなる不整脈では,心臓ペースメーカを入れる必要があります.
一方,脈が突然速くなるタイプの不整脈の多くはカテーテルアブレーションと呼ばれる方法で不整脈を治すこともできます.
さらに,心室細動など,一旦起こってしまうと,生命にかかわるような重症の不整脈に対しては,埋め込み型除細動器と呼ばれる医療器具を体内に埋め込むことで突然死を予防することができます.
脈が速くなる不整脈には,過労,睡眠不足,ストレス,カフェインの摂り過ぎなどで悪化するものが多いので,日頃からこれらを避けることも大切です.

不整脈についてご相談したい方は,循環器外来(なるべく月曜日か火曜日)に受診してください.


高血圧

 最近,血圧測定の機会が増し,高血圧が早期に発見されることが多くなってきています.高血圧を治療しないで放置すると,心臓や血管の障害が無症状のままに進行し,脳卒中や心筋梗塞を発症し,生命の危機にさらされることになります.
さて,何かの機会に高血圧を指摘された時はどうすればよいのでしょう.まず,本当に高血圧かどうかを見極める必要があります.当科では,高血圧の初診の患者さんに24時間血圧計をつけていただいています.この血圧計は,昼間は15分間隔,夜間は30分間隔で測定できる自動血圧計です.入院の必要はなく,24時間,血圧計をつけていただいたまま,通常の生活を送っていただきます.これによって,その患者さんの血圧レベル,血圧の日内変動を知ることができ,きめの細かい高血圧診療が可能になります.さらには医療機関での血圧測定に限って血圧が上昇する「白衣高血圧」を除外することができます.   
高血圧が存在することが明らかになりますと,高血圧の原因を調べます.高血圧の大部分は遺伝的・環境的素因による本態性高血圧ですが,全体の5〜10%前後に何らかの疾病に起因する二次性高血圧があります.二次性高血圧が強く疑われる場合は入院が必要です.
次に,高血圧による臓器障害がどの程度なのかを知る必要があります.これには,血液検査,尿検査,眼底検査,心臓および頸動脈超音波検査などがありますが,いずれも非侵襲的検査であり,苦痛は伴いません.
以上の検査結果を踏まえて,患者さんひとりひとりに合った治療法を選択し,降圧療法(食事療法,運動療法,薬物療法)を実践しています.


腎臓・膠原病/腎疾患
 全身でつくられた老廃物は血液によって腎臓に運ばれます.腎臓では,糸球体という装置で血液中の老廃物と水分が濾され,原尿(尿のもとのことです)ができます.原尿は1日約100Lつくられますが,99%が尿細管という装置で吸収され,1日尿量は約1Lにまで濃縮されます.糸球体腎炎とは血液を濾過する糸球体に病気がおこったもので,血液成分が漏れ出るようになり,蛋白尿と血尿が出現します.正常人でもわずかですが尿に蛋白は排泄されます.正常人の1日尿蛋白量は,0.2 g以下です.
一次性糸球体疾患とは,初めから糸球体だけに病気がおこったもので,他の臓器には病気がないかあるいは軽微なものをいいます.二次性糸球体疾患とは,まず腎臓以外に病気がおこり,糸球体に病気が波及したものです.代表疾患には,糖尿病,高血圧,膠原病,肝炎などがあります.
一次性糸球体疾患の中にもたくさんの疾患があり,微小変化型ネフローゼ症候群,巣状糸球体硬化症,管内増殖性糸球体腎炎(いわゆる急性腎炎),IgA腎症(メサンギウム増殖性糸球体腎炎),膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,および半月体形成性糸球体腎炎があります.疾患それぞれに特徴ある臨床症状がありますが,確定診断には腎生検が必要になります.
次に各疾患について順を追って説明しますが,重要な臨床症状であるネフローゼ症候群について先に述べます.
1.ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群とは糸球体から大量の蛋白が尿中に漏れでることにより,血清蛋白とアルブミンが減少し,そのために浮腫,腹水,体重増加,尿量減少などの臨床症状が現れるものです.1日尿蛋白量は3.5 g以上になります.高度のネフローゼ症候群が持続しますと急性腎不全になり,血液透析が必要になることがあります.原因疾患は以下に述べます一次性糸球体疾患の他に,糖尿病性腎症,膠原病,肝炎,アミロイドーシスなどがあります.小児の場合,90%が微小変化型ネフローゼ症候群(次項を参照)であるので,腎生検をせずに治療薬である副腎皮質ステロイドが投与されます.しかし,成人の場合はたくさんの原因でおこりますので,腎生検が必要になります.


2. 一次性糸球体疾患(腎炎

(1) 微小変化型ネフローゼ症候群
小児に好発する疾患ですが,成人にも多数みられます.朝起きると顔や足が膨らんでいたというように,急激に浮腫が出現します.尿量は減少し,尿が泡立つようになります.腹痛を伴うこともあります.入院して副腎皮質ステロイド療法や免疫抑制療法を実施しますと90%の患者さんが完全寛解します(治ることです).しかし,再発が約半数の患者さんにみられます.末期腎不全(慢性維持透析)にいたることはありません.

(2) 巣状糸球体硬化症
巣状糸球体硬化症は,微小変化型ネフローゼ症候群のようにネフローゼ症候群を呈しますが,その違いは糸球体の一部から硬化性病変(糸球体の構造がつぶれて硬くなること)が出現し,治療になかなか反応しないことです.ネフローゼ症候群が寛解しませんと,進行性の経過をとって50%以上の患者さんが末期腎不全に至ります.当教室では,副腎皮質ステロイド療法や免疫抑制療法を駆使して70%の患者さんが寛解になり,80%の方が末期腎不全になっていません.

(3) 管内増殖性糸球体腎炎
溶連菌感染後糸球体腎炎とほぼ同義語です.典型的には急性扁桃炎後2週してから血尿,高血圧および浮腫が出現します.病初期には尿が少なくなり,急性腎不全を呈することや重症高血圧になることがありますので,入院安静が必要です.治る病気です.

(4) IgA腎症(メサンギウム増殖性糸球体腎炎)
わが国で最も多い腎疾患です.免疫グロブリン(抗体のことです)のIgAが糸球体のメサンギウム*に沈着することによって起こるものです.血尿と血液のIgA値が上昇することが特徴です. IgA腎症全体では20年で30%の患者さんが末期腎不全に至りますが,重症度によって差があり,30年たっても腎機能が正常な人から,5年で末期腎不全になる人もいます.腎生検による重症度の判定が重要です.治療は重症度によって異なりますが,副腎皮質ステロイドやアンジオテンシンI変換酵素阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を投与し,腎機能の悪化を防いでいます.

(5) 膜性腎症
50-60歳の男性に多い疾患です.糸球体基底膜上皮下に免疫複合体がびまん性に沈着する腎炎です.大半の患者さんがネフローゼ症候群を呈します.末期腎不全に進行する症例は比較的少ないですが,治療に抵抗する患者さんが多いです.その場合には,長期に副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を服用する必要があります.まれに悪性腫瘍を合併している場合がありますので,全身の検査を実施します.

(6) 膜性増殖性糸球体腎炎
小児に多い疾患ですが,成人ではまれな疾患です.糸球体基底膜内皮下に免疫複合体がびまん性に沈着する腎炎です.しばしばネフローゼ症候群を呈します.治療に抵抗性を示し,約半数の患者さんが末期腎不全に至ります.血清の補体(免疫に関与する物質です)が低値を示すのが,検査での特徴です.

(7) 半月体形成性糸球体腎炎
最近増加している腎炎です.高齢者の女性に多い疾患です.数週から数ヶ月で末期腎不全に至ります.血尿は必ずみられますし,蛋白尿も高度です.全身倦怠感,関節痛,紫斑(下肢の赤い皮疹),肺出血などを伴うことがあります.抗好中球細胞質抗体(ANCA)が陽性になることがあります.副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬を投与して末期腎不全にならないように治療しています.

以上が,一次性糸球体疾患の概略ですが,患者さん個々で症状,状態,治療法が異なりますので,主治医から直接説明があります. 


3.腎不全

 腎臓には,
1) 血液中の老廃物を排泄する,
2) 血液中の水分や塩分のバランスを一定に保つ,
3) ホルモンを分泌し,赤血球を増やす,4) ビタミンDを活性化し,骨を丈夫にする,
4) 血圧を適切にコントロールする
などの多くの働きがあります.したがって,腎臓の働きが低下すると,老廃物や余分な水分を身体の外へ十分に排出できなくなり,食欲不振や体調不良の原因になります.また,貧血を起こしたり,骨がもろくなったりします.この状態を「腎不全」と言います.腎不全の原因には多くのものがあります.糸球体腎炎のような病気が原因の場合は,徐々に腎臓の機能が低下します(慢性腎不全).腎臓の働きが正常の10%以下になった状態を「末期腎不全」と言い,尿毒素や老廃物が血液中にどんどん溜まることから,むくみ,高血圧,吐き気,頭痛,疲労感,食欲不振,呼吸困難などのさまざまな症状が出現します. 末期腎不全になると,透析や腎移植の治療を受けることが必要です.

膠原病
 特色:膠原病およびリウマチ疾患全般の診断と専門的治療を実施しています.膠原病は多臓器を障害する全身性疾患であるため,他の専門科との密接な連携の元に総合的な診療を目指しています.
症例数・治療・成績:外来通院中の症例数は,慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群が約100〜150例,強皮症,多発性筋炎/皮膚筋炎,混合性結合織病が30〜50例,他にANCA関連腎炎,多発性動脈炎,ウェゲナー肉芽腫症などの全身性血管炎例.★SLEは,原則として入院のうえ副腎皮質ステロイド薬による治療を実施します.本院ではほぼ全例に腎生検を実施して腎病変の重症度を判定しており,症例毎に臓器病変とその重症度に応じて,きめ細かい治療方針を決定しています.重症ループス腎炎あるいは中枢神経ループスなどの難治性病態に対しては血漿交換療法や免疫抑制薬の併用療法が奏功しています.1980年以降の5年生存率は95%以上です.★慢性関節リウマチは,早期に診断を確定して関節の破壊を未然に防ぐ必要があります.本院では,抗リウマチ薬を早期から処方し,滑膜切除術などの適応についても整形外科と連携して判断しています.最近ではメトトレキセートの導入により寛解率は向上しました.今後は抗TNFα抗体などの新薬の治療効果が期待されています.★シェーグレン症候群は早期に確定診断し,予後に関連する外分泌腺以外の臓器病変を的確に診断して各個人にあった治療を実施しています.
外来診療:循環器・腎臓・代謝内科のリウマチ・膠原病外来:毎木曜日(藤本 隆,山田秀樹,長崎宗嗣)


糖尿病性腎症
最近,糖尿病による慢性腎不全の患者さんが著しく増加してきています.血糖コントロールの悪い状態が長期間続きますと,いろいろな合併症が現れますが,とくに腎臓の障害は糖尿病性腎症とよばれます.糖尿病になって10年以上経過すると発症しやすくなり,蛋白尿が出始めると危険信号です.高血圧もしっかりと治療しないと,腎臓の障害はますます進行します.やがて全身のむくみ(浮腫)があらわれるようになり,腎臓の働きも低下(腎機能障害)して,ついには透析療法が必要になります.糖尿病の患者さんは,血液透析か腹膜透析(CAPD)のいずれも選択できますので,担当の医師とよく相談してください.強いていえば,心臓病や循環器疾患をもつ患者さん,血管の動脈硬化がつよくてシャントが作りにくい方,眼底出血のある方,などはCAPDが向いているといえましょう.日常生活一般については,疲労の残らない程度でおこない,家事についても同様です.勤務も疲労を感じない程度の座ってする仕事ならよろしいが,超過勤務や残業は控えましょう.適度な運動はストレスの解消と体力の維持のためにも望ましいのですが,散歩やラジオ体操程度がよいでしょう.糖尿病網膜症(眼底出血)や神経障害のつよい方は,運動が逆効果になりますので,必ず医師の指示を受けて下さい.

奈良県立医科大学循環器・腎臓・代謝内科(第1内科) 〒634-8522 奈良県橿原市四条町840 TEL:0744-22-3051(代表)
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