カテーテル(不整脈)

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頻脈性不整脈の治療法「カテーテルアブレーション」

不整脈は循環器の中でも特に専門性の高い領域です。
近年、不整脈の領域では、ペースメーカ・両室ペースメーカ、植え込み型除細動器などの植込みデバイス治療、およびカテーテルアブレーションというお薬を用いない治療法の果たす役割・重要性が増してきています。そのため、不整脈の治療においては、心臓と不整脈に関する専門的知識のみならず、各医療機器に対する理解と、それらを使いこなす高度な技術が要求されています。当科では日本不整脈心電学会の認定する不整脈専門医が2名在籍しており、最高水準の診断、治療を提供しています。

カテーテルアブレーションは多くの頻脈性不整脈(脈の早くなる不整脈)に対する根治的治療法です。
カテーテル(Catheter)というのは細い管の事で、動脈や静脈に挿入し、細くなっている血管を風船で拡げる、出血している部位に止血剤を注入するなど、様々な治療に利用されています。不整脈領域では電極カテーテルという先端に複数の金属(電極)の付いたカテーテルを使用して、診断と治療を行います。

高周波カテーテルアブレーションの原理

※電極カテーテルの先端から背部に貼った対極板へ高周波電流を流すと、カテーテルの接触した心筋に火傷ができる

術前に記録されている不整脈発作時・非発作時の心電図から想定される診断に基づいて、電極カテーテルを心臓の内腔へ進め、電極が接触している局所の心電図(心内心電図)を記録します。

要所となる部位の心内心電図の記録を行い、不整脈の原因となっている部位をmm単位の精度で見つけ出し、先端の電極から高周波電流を流します。すると電極カテーテルが接触している心筋に抵抗熱が発生し、小さな(直径5mm程度)火傷を作ることができます(※上図参照)

カテーテルアブレーションは心筋焼灼術と訳されますが、アブレーション(Ablation)という英単語は、切除する、除去するという意味です。高周波電流によって火傷を起こした心筋は興奮できなくなるため、対象とした不整脈の原因部位を除去する事ができる=根治的治療となります。

主な頻脈性不整脈

心房性不整脈  心室性不整脈  房室結節の関与する不整脈
(発作性上室性頻拍)
心房期外収縮
心房頻拍(心房粗動を含む)
心房細動
心室期外収縮
心室頻拍
心室細動
房室結節リエントリー性頻拍
房室回帰性頻拍(WPW症候群)

頻脈性不整脈は上の表に示すように多くの種類がありますが、最近では、ほとんど全ての頻脈性不整脈がカテーテルアブレーションによって治療可能となっています。放置していても危険性がなく、かつ自覚症状のない不整脈に治療を行うことはありませんが、アブレーションの対象となる不整脈をお持ちの患者さんに対しては、精力的にカテーテルアブレーションを行っております。

カテーテルアブレーションの発展の背景には種々の要因がありますが、中でも、レントゲンを使うことなく電極カテーテルをリアルタイムに表示し、心臓の中の電気の流れをCG画像として表示できる三次元マッピングシステムの登場はその最たるものです。当施設では、最新鋭の三次元マッピングシステムを2種類(エンサイトシステム、カルトシステム)導入しており、患者さんの不整脈に応じてこれらを使い分け、心房細動や心室頻拍等の複雑な不整脈に対しても安全、かつ効果的なアブレーションを実践しています。

アブレーションという治療法は、心臓の中で火傷を作るため、通電中には胸の奥が熱くなり、場所によっては痛みを感じる場合があります。当施設では通電回数が多くなる不整脈(心房細動、心室頻拍等)では麻酔薬を用いて、寝ている間に治療を行っており、手術中の苦痛を感じることなく、カテーテルアブレーションを受けて頂けます。不整脈の種類によっては、麻酔を行わない方が良い場合もありますが、可能な範囲で最大限、苦痛を軽減できるように努めています。

カテーテルアブレーション件数の推移

カテーテルアブレーション件数の推移

※1回の手術中に複数の不整脈に対するカテーテルアブレーションを施行した場合、それぞれを1例としてカウントしています

当施設におけるアブレーション件数の推移を上の表に示します。心房細動は疾患としての頻度が高く、かつ放置すべきでない不整脈であるため、最も多くのアブレーション件数を占めています。

心房細動とは

頻脈性不整脈は不整脈の発生部位とその速さ(興奮頻度、1分間に何回興奮するか)で名称が決まります。
「細動」は中でも最も早い興奮頻度の不整脈に対して用いられます。
心房細動は心房が細かく動く、実際には1分間に300~500回もの頻度で興奮する不整脈です。

図A 心房細動の時の電気の流れ

正常の心拍では心房と心室は 1:1 の関係で興奮していますが、心房細動の時は、中継所である房室結節が頻回すぎる心房興奮のフィルターとして働いており、心室に伝わる興奮は一拍毎に興奮の間隔が変わって、バラバラの脈になります(※上図A 参照) ※心臓の構造と正常な刺激伝導系については「植込みデバイス」をご覧ください

図B 心房細動と血栓塞栓症

心房は痙攣状態となっており、心室へ効率よく血液を送り出す事ができません。心房内で血液がよどむため、血液が凝固して血栓が出来る場合があり、左心房で出来あがった血栓が血流に乗って全身の動脈に流れ飛んでいくと、行き着いた先の動脈を閉塞してしまって、その先の組織が壊死してしまいます(※上図B 参照)

これを血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)と言いますが、特に脳梗塞は頻度も重症度も高く、医師が心房細動患者さんを見た時に最も気をつけている合併症です。

心房細動のカテーテルアブレーション

1998年に、心房細動のほとんどが肺静脈からの異常興奮が原因であることが報告され(※下図Cの星印)、以後、心房細動に対するカテーテルアブレーションが急速に発展しました。

図C 心房細動アブレーション

心房細動アブレーション

心房細動に対するカテーテルアブレーションでは、肺静脈と左心房の連結部分を円周状にアブレーションし、左心房から隔離する肺静脈隔離術が広く行われています。これにより、肺静脈で起きる異常興奮が左心房へ伝わらなくなり、心房細動を防ぐ事ができます。

同じ肺静脈隔離術を行うにしても、隔離範囲を広げて左心房の一部を含める方が治療成績の良い事が示されており、当施設では左房後壁を一括して隔離する、肺静脈隔離術の発展形とも言えるBox(箱型の)隔離術を積極的に実施しています。

当院における心房細動アブレーションの成績(2016年)

単回治療後の
無再発率
再治療率 再治療後の
無再発率
発作性心房細動(60例) 83.3% 13.3% 94.7%
持続性心房細動(28例) 82.1% 10.7% 92.9%

・2016年に当院で初回の心房細動アブレーションを受けられた方の1年後の成績です
・再治療後の無再発率については、再治療後1年未満の方は除いています(発作性で3名、持続性で1名)
・無再発の定義は、抗不整脈薬を服用せず、症状のある心房性不整脈、もしくは30秒以上の心房性不整脈の発作が記録されないことを指します

心房細動アブレーションの一般的な無再発率は発作性心房細動で70~80%程度、持続性心房細動では50~60%程度とされていますが、当施設では、様々な手法・工夫で先に述べたBox隔離の精度を高め、さらにBox隔離でも治りきらない困難なケースに対しても、個々の患者さんに応じて最適と考えられるアブレーション手法を追加することで、最近では発作性心房細動、持続性心房細動ともに単回治療で80%以上、再治療を含めると90%以上もの無再発率を得ています(※上の表を参照)

心房細動アブレーションの手術時間は心房の大きさや、Box隔離のみで終了できるか否かで異なるため、約2~4時間と患者さん毎に大きく異なります。焼灼の回数が多いため、原則的に全身麻酔で意識・痛みのない状態で治療を行います。入院期間は約5日程度です。