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心臓の構造と刺激伝導系

心臓の中は4つの部屋から成り立っており、中隔(ちゅうかく)と言う壁で左右に、逆流防止弁で上下に仕切られており、上の部屋を右心房(しんぼう)、下の部屋を心室(しんしつ)と言います。
全身を流れた後の血液(静脈血)は右心房へ戻り、右心室から肺へ送り込まれ、肺で酸素化された血液は肺静脈を通って左心房へ戻り、左心室から大動脈へ駆出され再び全身を循環します。

この血液の流れを生み出すため、心臓の収縮は心房arrow_right_alt心室の順番に起こっており、また、特に心室は肺や全身の動脈に血液を駆出するため、何億もの心筋細胞同士が、タイミングを合わせて収縮しています。
この調和のとれた収縮順序・タイミングを生み出すのが、心筋細胞の中でも、刺激伝導系(しげきでんどうけい)と呼ばれる、電気を流す役割に特化した細胞集団です。

心臓の構造と刺激伝導系

洞結節
上大静脈と右心房の接合部にあり、自律神経の興奮を反映して心拍数を決定している人間固有のペースメーカです。
房室結節
心房中隔の右側にあり、心房の興奮を心室に伝える唯一の中継経路です。
刺激伝導系を発見された日本人医師、田原淳(たわらすなお)先生に因んで田原結節とも呼ばれます。
ヒス束
房室結節から伸びて心房と心室を中継する経路です。
左脚・右脚
[ さきゃく・うきゃく ]
両者をまとめてプルキンエ線維とも呼ぶこともあります。ヒス束から分岐して心室内で網の目状に広がり、心室の心筋細胞へ電気刺激を届けます。

植え込み型デバイスによる不整脈治療

不整脈は循環器の中でも特に専門性の高い領域です。
近年、不整脈の領域では、ペースメーカ・両室ペースメーカ、植え込み型除細動器などの植込みデバイス治療、およびカテーテルアブレーションというお薬を用いない治療法の果たす役割・重要性が増してきています。

そのため、不整脈の治療においては、心臓と不整脈に関する専門的知識のみならず、各医療機器に対する理解と、それらを使いこなす高度な技術が要求されています。当科では日本不整脈心電学会の認定する不整脈専門医が2名在籍しており、最高水準の診断、治療を提供しています。

植込み型デバイス治療とは、脈が遅くなる不整脈(徐脈性不整脈)に対する人工ペースメーカ、致死性不整脈である心室細動・心室頻拍から救命する植込み型除細動器、心不全に対するペースメーカを用いた治療法である両室ペースメーカなどを用いた治療法です。

徐脈性不整脈に対するペースメーカ治療

心臓ペースメーカは脈が遅くなる不整脈(徐脈性不整脈)を持つ患者さんに対する治療法です。
ペースメーカは下図Aに示すように心筋へ刺激を伝える導線(リード)とコンピューターや電池を収める本体部分(カン)から構成されています。鎖骨の下の皮下に3cmclose5cm程度のカンを植込み、リードは静脈を通して右心房や右心室に留置します。

図A 植え込みデバイス治療

植込み型デバイス治療 ペースメーカ植込み

筋力トレーニングやダイエットのため、腹筋や太腿などの筋肉を電気で刺激するベルト・バンドが市販されていますが、心筋細胞も電気刺激を送ると興奮させることができます。リード先端の電極で患者さんの心電図を常時監視し、必要なタイミングで微弱な電気信号を送って心臓を刺激し(ペーシングと言います)、心拍数を適切に保ちます。

徐脈性不整脈とその原因部位

心臓ペースメーカが対象となる不整脈は大きく分けて2種類あります(右図B)。1つ目は人間固有のペースメーカである“洞結節“の働きが悪化して、脈が遅くなったり途絶えたりする洞不全、2つ目は心房で生じた刺激が心室に伝わるまでの途中経路(房室結節やヒス束、プルキンエ線維)の断線で生じる房室ブロックです。また、徐脈性心房細動という不整脈も心臓ペースメーカの対象となりますが、これは心房細動患者さんに房室ブロックが起きた状態です。

心臓ペースメーカは50年以上の歴史のある治療法であり、全国でも多くの病院で実施されていますが、当施設は県内トップの手術件数(※下の表を参照)で、植え込みデバイス外来へ通院されている患者さんの数も500名以上に登ります。

心臓植え込みデバイス手術件数の推移

心臓植え込みデバイス手術件数の推移

豊富な手術件数から、手術に際しては、カットダウン法と言って気胸という合併症を起こすことなく、リードへの負担も少ない(断線を起こしにくい)リード挿入法を第一選択としており、リードの挿入位置も、より生理的な心臓収縮に近いとされるヒス束ペーシング・心室中隔ペーシングを積極的に実施するなど、より安全かつ有効な手術を追求しています。

手術は主に局所麻酔で行い、手術時間は約1~2時間程度です。吸収糸(きゅうしゅうし、溶ける糸の事)を用いて、体表から糸が見えないように縫合しますので、術後の抜糸も必要ないため入院は通常1週間程度です。

心臓突然死を防ぐ植込み型除細動器(ICD)

植込み型除細動器は、心室細動・心室頻拍という失神や突然死の原因となる頻脈性不整脈を起こした患者さん、あるいはこれらの不整脈を起こす危険性の高い患者さんに対する植え込みデバイスです。ペースメーカと同様に、患者さんの心電図を常時監視し、心室細動・心室頻拍を捉えた場合に、自動的に抗頻拍ペーシングや電気ショック(電気的除細動といいます)を行い、これらの不整脈を停止させます。

デバイスの構成はペースメーカと似ていますが、本体はペースメーカに比して大きく、重く、リードも電気ショックのための電気を流すコイル電極が付いたものを使用します(図A 右側写真)。
手術時間や入院期間は概ねペースメーカと同様です。

皮下植込み型除細動器

2016年から静脈や心臓の中にリードを留置しない、皮下植込み型除細動器(※上図参照)が使えるようになりました。 皮下植込み型除細動器は全身麻酔で行いますが、麻酔の時間を含めて手術は2時間程度です。

両心室ペースメーカ

重症心不全に対する両室ペースメーカ

心筋梗塞や心筋症等の患者さんの中には、左脚の伝導障害(左脚ブロックと言います)を合併する方がおられます。

左脚ブロックになると、中隔と側壁の収縮タイミングがずれてしまい、左心室の収縮効率が著しく低下してしまいます。

両室ペースメーカは、通常のペースメーカリード(右心室と右心房に挿入します)に加えて、心臓の静脈である冠静脈にリードを追加し、左心室を両側から電気刺激することで、動きの調和を取り戻す治療法です。

デバイス感染、不全リードに対するリード抜去術

植え込みデバイスは年単位で長期間体内に留置する医療器具でのため、感染症やリードの断線・本体の不具合を生じる可能性がゼロではありません。本体部分の交換は比較的容易ですが、リードについては、何年間も血管内・心臓内に留置されていると接触している組織と結合してしまい、引っ張るだけではリードが切れてしまって、取り出すことが困難になります。感染症や静脈が閉塞している等、治療の上でどうしてもリードを取り出さなければならない状況では専用のカテーテルを用いたリード抜去術が必要になります。

当施設は県内で唯一、エキシマレーザーシースを用いたリード抜去術が実施できる認定施設となっています。手術は心臓血管外科のバックアップの下、原則として全身麻酔で行っています。

植え込みデバイスの進歩

植え込みデバイスの進歩は著しく、先進的な技術が次々に開発されています。最新の植え込みデバイスは学会や医療機器メーカーが開催する研修を受講しなければ使用する事が出来ない場合がありますが、当施設ではこれらの講習を早期に受講し、患者さんに新しい技術の恩恵を受けて頂けるように、努めています。

MRI撮影対応デバイス

2012年10月以降の新規植え込み機種は全て、MRI撮影に対応した機種であり、ペースメーカ患者さんのMRI撮影件数も累積で60件を超えており(2018年3月現在)、病状により、緊急を要するMRI撮影にも対応できる体制を整えています。

遠隔モニタリング

植え込みデバイスは原則的に終生、患者さんの体内に留置するものであり、定期的な点検が必要です。
当施設では週2回の植え込みデバイス専門外来で、専任の臨床工学技士とともに点検を行っています。

遠隔モニタリング

近年では、自宅に専用端末を置いて頂き、植え込みデバイスの状態や患者さんの不整脈の発生状況を観察できる遠隔モニタリングシステムを積極的に導入しています。遠隔モニタリングを活用することにより、植え込みデバイスに関連するトラブルを早期に発見できる、種々の理由で定期的な点検が難しくなっている患者さんも見守りができる、外来の待ち時間短縮できる、などのメリットがあります。

リードレスペースメーカ

2017年11月から、当施設でもカプセル型のリードレスペースメーカが使えるようになりました。
通常のペースメーカは本体を鎖骨の下の皮下に植え込み、静脈を通してリードを心臓の中に挿入しますが、リードレスペースメーカは本体と電極が一体となっており、足の付け根の静脈を通して右心室へ留置します。

リードレスペースメーカ

皮膚の切開や縫合する必要がなく、皮下に本体がないため、手術が終わればペースメーカの存在を意識する事なく生活できます。(現状では右心室に挿入する機種のみであり、全ての徐脈性不整脈の患者さんに適応できるものではありません)