| 【肝移植とは】 |
| 末期の肝臓病の患者さんの悪くなった肝臓を、ドナーと呼ばれる臓器提供者から摘出した健康な肝臓に入れ替える治療です。欧米で多くおこなわれている脳死状態の人から肝臓をもらう脳死肝移植という方法と、身内の健康な方(生体ドナー)の肝臓の一部を手術で摘出して移植する生体肝移植という方法があります。日本ではほとんどが生体肝移植であるのが現状です。 |
|
| 【どんな病気の人が対象になりますか?】 |
| 肝臓が悪いために生命の危機に瀕している患者さんが対象となる治療法です。実際には、B型やC型肝炎などからの肝硬変や、肝臓癌、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ウィルソン病やシトルリン血症などの肝代謝異常症など、多くの肝臓疾患が対象になります。小児では胆道閉鎖症が多くを占めます。 |
|
| 【生体肝移植手術の実際】 |
| 肝臓には肝動脈、門脈、肝静脈という血管で血液が流れています。一般的な生体肝移植手術では、まず患者さんの悪い肝臓を肝動脈、門脈、肝静脈、胆管を切って摘出し(図1)、これらの血管にドナーから摘出した右半分あるいは左半分の肝臓の血管を縫い合わせて血液を通わせます(図2)。肝臓で作られた胆汁を腸へ運ぶための胆管もつなげて移植手術は完了ですが、12時間前後、場合によってはそれ以上かかる手術です。 |
|
|
| 【移植後の治療】 |
| 自分以外の臓器が体内に入ると、拒絶反応がおこります。これを抑えるため免疫抑制剤という薬を使いますが、移植後1−2ヶ月は拒絶反応が起こりやすく免疫抑制剤の量が多いため、副作用として感染に対する抵抗力が落ちて重症感染症をおこすなど、いろいろな合併症が起こりやすくなります。この時期を過ぎると拒絶反応も弱くなり状態が安定します。退院したあとも定期的に外来通院しつつ、免疫抑制剤は原則として一生飲み続ける必要があります。 |
|
| 【生体肝移植の治療成績】 |
| 図3は、生体肝移植症例の全国調査での移植後の生存率です。移植直後に急激に生存率が低下したあとは比較的安定します。これを見ても、移植直後の状態を乗り切って退院まで漕ぎ着けることが肝移植成功の最大のハードルであることがわかります。全国調査での成功率は成人で約75%、小児で約85%です。移植が成功すると、患者さんは見違えるように元気になり、肝臓病になる前の健康な生活を取り戻すことができます。仕事も出来ますし、スポーツも楽しめるようになります。 |
 |
| 図3 生体肝移植後の生存率の全国調査(日本肝移植研究会Registry2005) |
|
| 【ドナーの問題】 |
| 生体肝移植において最も重視されなければならないのがドナーの問題です。一般に生体肝移植ドナーとなる条件は、3親等以内の家族あるいは配偶者で、年齢は20歳以上60歳未満を原則としています。血液型の組み合わせも考慮します。最も大切なことは、自分自身の意志で、肝臓の一部を切り取る手術を受けてでも肝移植を行いたいと思っているかです。ドナーの方は、通常であれば手術後2−3週間で退院し、2−3ヶ月で、ほぼ手術前の生活に復帰できますが、合併症を起こす可能性もあります。移植をしない選択枝もあることを示しつつ充分時間をかけて説明した上で決心していただくよう努めています。 |
|
| 【費用の問題】 |
| 2004年以降、ほとんどの生体肝移植が保険診療で行えるようになり、高額療養費制度を利用すれば普通の外科手術と同様に、一般所得の方で、月額7−8万円程度の負担額で肝移植手術が受けられます。生体ドナーの医療費は、移植を受けた患者さんに算定されます。 |
|
| 【おわりに】 |
| 当院でも、これまで11人の末期の肝臓病の患者さんに生体肝移植を行い、幸いにして全員無事退院に漕ぎ着けることができ、現在も10人の方が健在で元気に生活されています。移植直後の状態を乗り切るまでには非常に困難な状況を克服しなければならないことも少なくありませんし、生体肝移植では、臓器提供者である健康な人の体にメスを入れるという問題があり、決して安易行える治療ではありませんが、末期肝臓病で非常に状態の悪かった患者さんが、移植によって本来の健康をとりもどして元気にされている姿をみると、やはり素晴らしいと思います。 |
|
| 【補足のコラム:肝臓の働きと再生】 |
| 肝臓は、腸で吸収された栄養分を作り変えて身体全体にエネルギーとして利用できる形で供給する作用、体内の有害物質を分解して取り除く解毒作用、出血したときに血を止めるのに必要なタンパク質を作るなど、非常に多彩で複雑な働きを担っています。このため、腎臓がダメになったときに血液透析を行うとか、膵臓が弱って糖尿病になったときにインシュリン注射で補うといった治療方法がありません。また、正常な肝臓は再生力があるという特徴があります。健康人であれば、肝臓を65%切り取る手術をうけても、残りの35%の肝臓が再生して、その大きさは3ヵ月後に手術前の約80%にまで回復し(下図)、1年後にはほぼ手術前とほぼ同等になります。この性質があるので肝臓の25-65%を切り取る生体肝移植ドナーの手術が可能なのです。このような再生力は、腎臓、膵臓、肺などの他の臓器にはみられないものです。 |
 |
| ドナー手術で肝の右側を摘出したが、3ヵ月後のCT画像で左側が大きく再生している。 |