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1. 劇症肝炎、急性肝不全

急性肝不全は、肝疾患の病歴がなく、急激に肝細胞が壊されて肝臓の機能が果たせなくなった状態をいいます。中でも、特に症状が酷く、場合によっては死に至るものを「劇性肝炎」と呼んでいます。劇性肝炎の場合、病が脳に至り「肝性脳症」と呼ばれる意識障害が出る様になり、最悪の場合は7日から10日で亡くなってしまうというとても怖い病気です。10日以内に肝性脳症が現れる急性型、10日以降~8週間以内に肝性脳症が現れる亜急性型2つの病型に分かれます。 両者の最終的な予後(生存するか、死亡するか)は異なり、内科的な救命率は急性型50%、亜急性型20%です。 内科的治療に抵抗性の場合は肝移植が考慮されます。症状が酷ければ酷いほど致死率も高くなりますので、早期発見、早期治療が重要です。

2. ウイルス性肝炎(HAV, HBV, HCV他)

HAV
患者の糞便に排泄されたA型肝炎ウイルスで汚染された食物や飲料水を介して経口感染します。日本での感染は少なく、東南アジアなど衛生面の整備が整っていない地域へ旅行した後に発症することが多くなっています。倦怠感、食欲不振の他に38度台の発熱を伴います。治療は安静が中心ですが、重症化・遷延化する場合には、肝庇護剤や副腎皮質ホルモンなどの投与が必要となります。

HBV
B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染して起きる肝臓の病気です。HBVは感染した時期、感染したときの健康状態によって、一過性の感染に終わるもの(一過性感染)とほぼ生涯にわたり感染が継続するもの(持続感染)とに大別されます。成人になってからHBVに初めて感染した場合は急性肝炎を起こし、大多数はその後に治癒します。ただし、治癒後も少量のウイルス遺伝子が肝細胞内に残るため、免疫力が低下すると肝炎が再燃することがあります。一方、母子間感染や乳幼児期の水平感染ではウイルスが肝臓に定着してしまうことが多く、一生にわたって感染状態が続きます。その状態を「キャリア」といいます。キャリアは思春期から若年成人になると肝炎を発症します。その後、自然経過で肝炎が落ち着くことが多いのですが、一部は慢性肝炎から肝硬変へ進行し、肝がん合併の危険性が高くなるので注意が必要です。慢性B型肝炎の治療としてインターフェロンや核酸アナログ(内服薬)が治療の中心となります。

HCV
C型肝炎とはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染により起こる肝臓の病気です。C型肝炎ウイルスの検査法の進歩により血液製剤の安全性は高くなり、現在では輸血による感染は稀です。 最近の感染経路として、覚醒剤、入れ墨、医療行為などがあります。 C型肝炎の治療は、インターフェロン(IFN)を用いてHCVを排除する方法であります。しかし、C型肝炎には1型、2型があり、日本で最も多いとされるジェノタイプ1b型ではIFNが効きにくいことが知られており、最近では経口薬による治療が新しく始まっています。今後、経口薬は薬物耐性などの問題は残されていますが、新薬の開発が進みC型肝炎は治癒する時代がくることが期待されています。

3. 自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの自己免疫疾患

自己免疫性肝疾患は、原因は不明ですが本来自分の身を守るための免疫が、自己を異物として攻撃する自己免疫が発生機序に関与していると考えられている病気です。主に以下の3つの疾患があります。

1. 自己免疫性肝炎(AIH)
中年以降の女性に多く、50歳から60歳代が発症の中心となっています。AIHでは自己免疫の働きで、自身の肝臓の細胞を攻撃するようになり、結果として肝臓の炎症を起こしている状態です。検査所見では、肝機能の上昇がみられ、重症の場合は黄疸もみられます。抗核抗体をはじめとする自己抗体の陽性所見が特徴的で、自己免疫反応を抑えるために免疫抑制剤、特に副腎皮質ステロイドが治療に用いられます。ほとんどの患者さんで投与により肝機能検査値は速やかに正常化します。しかし、肝機能検査値が正常化しても治療は長く続けることが大切です。

2. 原発性胆汁性肝硬変(PBC)
AIH同様中年以降の女性に多く、50歳代が発症の中心となっています。病態はAIHと異なり、肝臓の細胞ではなく、細い胆管(肝臓でつくられた胆汁の流れる管)が破壊され、肝臓内に胆汁が停滞することによって起こる病気です。まず皮膚の痒みが現れ、その後に黄疸が出現することが特徴的です(症状のある場合を症候性PBCと呼びます)。 最近では、全く症状のない、肝機能の異常が診断の契機となるPBC(無症候性PBC)が増えています。治療としてはウルソデオキシコール酸が効果的です。しかし黄疸が進行した例には肝移植を検討します。

3. 原発性硬化性胆管炎 (PSC)
発症年齢は20歳代と60歳代に2つのピークがみられます。肝臓の中あるいは外の胆管が障害される病気です。PSCでは、黄疸やかゆみが主な症状ですが、無症状で肝機能検査異常により見つかる場合もあります。診断には胆管造影検査が必要です。治療は、病態に応じて内服治療や内視鏡による治療が行われます。内科的治療でコントロールされない場合には肝移植治療を検討します。若年の患者さんでは潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性腸疾患を合併しやすいとされています。

4. アルコール性肝障害

アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが不安定で反応性に富んだ物質であるため、生体内のタンパク質や脂質を変性させ、肝臓を障害すると考えられています。アルコールの過剰摂取により最初に起こる肝臓の変化は脂肪肝で、日本酒1日5合程度1週間飲み続けると起こると考えられています。さらにアルコール性脂肪肝の人がさらに継続して大量に飲酒すると、肝臓が張れとともに右上腹部に痛みが出現し、黄疸も見られ、尿の色が紅茶色になります。ひどくなると腹水とむくみも出現します。このアルコール性肝炎と呼ばれる病態は、救命率が低い重篤な肝炎です。また慢性的に日本酒3~5合の飲酒を続けていると、肝細胞の壊死を伴わない肝線維化が進行し、男性なら約20年、女性なら約12年後に不可逆的なアルコール性肝硬変に移行します。基本的には治療はいずれも禁酒ですが、肝炎、肝硬変になると禁酒のみでは改善せず、病態に応じた治療が必要となります。

5. 非アルコール性脂肪性肝疾患

肝細胞に脂肪(中性脂肪)が沈着して肝障害を引き起こす病態を脂肪性肝疾患であり、脂肪肝は、以前はアルコールによるものが多かったのですが、糖尿病や肥満など生活習慣病の表現形として、飲酒歴はないがアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害がみられる病態をまとめて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ぶようになりました。NAFLDは肝細胞に脂肪が沈着する単純性脂肪肝と、脂肪沈着によって炎症や線維化がおこる脂肪肝炎に大別されます。この炎症を起こし線維化が進行する病態は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれ、肝硬変に至り、肝細胞癌を引き起こす可能性があります。血液検査、肝生検などの検査を受けると共に、運動療法・食事療法を行い、体重減少に努めることが重要です。さらに、発癌を考慮した腹部画像検査による定期的な経過観察が必要です。

6. 肝線維化・肝硬変

肝臓の線維化とは、肝炎ウイルスや薬物などにより肝臓に傷が生じますが、その傷を修復するときにできる「線維(コラーゲン)」が増加して肝臓全体に拡がった状態のことです。肉眼的には肝臓全体がごつごつして岩のように硬くなり、顕微鏡でみると肝臓の細胞が線維によって周囲を取り囲まれている様子が観察できます。肝硬変になると、肝臓が硬いために起こる腹水や食道静脈瘤や肝臓機能が低下するために起こる肝性脳症や黄疸に対する種々の治療が必要となります。

7. 肝細胞癌、転移性肝癌 など

肝臓のがん(肝がん)には転移がんと原発がんがあります。転移がんは胃がんや大腸がんのように門脈の上流にできた消化器がんが門脈を介して肝臓に転移したがんです。これに対して原発がんは肝臓の細胞ががん化してがんを発生させる場合で、肝細胞がんと胆管上皮がんがあります。我が国で最も多い原発がんは慢性C型肝炎後に発生する肝細胞がんです。治療には、主に内科的なラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓術(TACE)、外科的肝切除があります。治療は個々の症例に応じて選択されます。肝細胞がんが一度発生すると、肝内の別の部位にまた起こる可能性があり、がん除去術後に定期的な検査が求められています。