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研究
グループ04

産業疫学研究・産業保健OCCUPATIONAL HEALTH


OCCUPATIONAL HEALTH TOPICS

研究概要

1. アスベストの健康影響

石綿(アスベスト)は天然に産出する繊維状鉱物で、高温や化学薬品にも強く、経済性にも優れていたため、多くの産業分野で広く使用されてきました。その一方、アスベスト繊維の吸入によって、石綿肺、悪性中皮腫、肺がんなどの健康被害が生じることが分かり、現在はアスベストは全面禁止されています。しかし、アスベストに起因する疾患は、数十年の期間を経て発症するので、健康被害の発生はこれからも続くことが予測されています。

職業性アスベスト曝露を受けた労働者集団の疫学調査は、海外では1970年代より多数行われていますが、日本では1990年前半までありませんでした。 私たちは、アスベスト曝露による長期の健康影響を検討する目的で、造船所で1947年の操業開始後から1979年末に至るまでの間にアスベスト曝露を伴う作業に従事していた男性労働者265名を対象とした歴史的コホート研究を、1996年と2007年に実施しました。約94%にあたる249名の追跡に成功し、およそ3分の2の方が亡なっておられ、肺がんによる死亡リスクが日本人男性の平均死亡リスクを有意に上回っていることを確認しています。

2. 化学物質の健康影響

化学物質は、人、環境、動植物などに与える影響に関する試験を実施して、人の健康及び生態系へのリスクが十分に低いと判断されたものに対して、国はその製造・使用を許可しています。しかし、化学物質の有害性は、その化学物質を多量に取扱う労働者からの健康障害によって発見されることが少なくありません。また、労働者の健康被害発生によってその化学物質の製造や使用が禁止になっても、取扱っていた労働者の健康障害の発生は続きます。化学物質による人への健康影響については、過去に使用されていた化学物質についても検討する必要があります。

私たちは、膀胱への発がん性が明らかになり、現在は製造・使用が禁止されている化学物質(ベンジジン、β‐ナフチルアミン)について、膀胱以外の部位への発がん性を検討する目的で、1940-1970年代に上記2物質の取扱いに従事したことのある労働者224名を対象とした歴史的コホート研究を実施しました。その結果、膀胱だけでなく、肺の発がんリスクが一般住民よりも有意に高いことを確認しています。

3. 運動器障害

業務上疾病統計によると腰痛症は「負傷に起因する疾病」の約6割を占める重要な職業性疾患で、腰痛に代表される運動器障害は労働者における最も大きな健康問題です。特に、保健衛生業(介護労働者、保育士、看護師)に運動器障害は多発しています。
保健衛生業における運動器障害の多発は1970年代から指摘されていますが、2000年以降の調査でも、労働者の6-8割が過去1か月に運動器障害の痛みを訴えており、運動器障害問題は解決していません。

私たちは、これまでに保育士の運動器障害の自覚症状や、介護労働者の運動器障害が日常生活や仕事上の生活の質(QOL)に与える影響について調査し、運動器障害や運動器障害関連QOLに、職業性ストレスが関連していることを明らかにしました。これらの調査は、労働者の運動器障害対策として、筋骨格系への負担軽減に加えて、ストレス対策も必要であることを示唆しています。

4. 医師の労働

近年、医師労働に対する社会的な関心が高まり、医療を受ける側も提供する側も、早急な対策が求められています。私たちは、医師のうつ症状と労働負担との関連や、患者とその家族からの身体的・精神的暴力被害について調査してきています。
調査票によって『うつ症状あり』と判定された医師は約3割で、長時間労働よりも職業性ストレスが関連していることを明らかにしました。

患者とその家族からの身体的・精神的暴力被害については、医師の15.7%が『過去1年間に被害を受けた』と回答し、実労働時間千時間あたりの暴力被害の発生頻度は0.20であること、また暴力被害に関連していた要因は医師経験が短いことや特定科(皮膚科、精神科、眼科)などであること、重度の暴力被害によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症している医師がいることを明らかにしました。
医師の労働環境改善には、職業性ストレスや職場における暴力被害への対策が重要です。

研究メンバー

氏名 所属
冨岡 公子 奈良県立医科大学 地域健康医学教室
佐伯 圭吾 奈良県立医科大学 地域健康医学教室
車谷 典男  奈良県立医科大学 地域健康医学教室

対象者の皆様へ

皆さまのご協力により労働による健康障害が明らかになってまいりました。これからも労働者の健康を守るために、疫学的手法を用いた調査を行なってまいります。今後とも皆様のご支援とご協力をよろしくお願いいたします。