ダブルバルーン小腸内視鏡検査について

 小腸は長さが数メートルある消化管の中央にある臓器ですが、口からも肛門からも遠いので、従来の内視鏡では観察が困難でした。そのため、暗黒の臓器と呼ばれていました。幸い小腸には病気が少ないとされており、臨床上あまり重要視されてきませんでした。しかし、自治医科大学の山本博徳先生がスコープ先端とスコープ外筒先端にバルーンを装着し、小腸をたぐり寄せてアコーディオンのように縮めながら挿入するダブルバルーン小腸内視鏡を考案し、実用化されたことが状況を一変させました。一方、2001年にイスラエルの企業がカプセル内視鏡を実用化させ、世界中で使われるようになりました。この2つの技術革新で暗黒の臓器と呼ばれてきた小腸に光が当たったのです。その結果、予想外に小腸にいろいろな病変がみられることが分かってきました。

ダブルバルーン内視鏡の仕組みと挿入方法
 バルーンを膨らませることで、腸管を傷つけずにスコープやスコープ外筒を腸管の任意の位置に固定します。2つのバルーンを交互に膨らませてスコープと外筒を交互に進めることにより、尺取り虫のようにスコープを進めることができるのです。また、バルーンを膨らませた状態でゆっくりスコープや外筒を引っ張ることで腸管をたぐり寄せて短縮させることが可能となります。
 ダブルバルーン小腸内視鏡は口からでも(経口的)、肛門からでも(経肛門的)挿入できますが、全小腸を検査する場合はどちらか一方からだけでは無理があるので、2回に分けて検査します。一般的には、経肛門的挿入で小腸の約2/3を調べ、最深到達部の粘膜下層にごく少量の墨を注入して印を付けておき、日を改めて経口的挿入で残りの小腸約1/3を検査します。2回目の検査で墨で印が付いているところまで観察できれば、全小腸を観察できたことが分かります。経口的挿入と経肛門的挿入のどちらを先に行うかは、病変が小腸の入り口に近いか出口に近いか、可能性の高い方を先にしますが、分からない場合は、一般的には経肛門的挿入を先にします。1回の検査時間は1〜2時間です。

<注>シングルバルーン小腸内視鏡
 ダブルバルーン小腸内視鏡はフジノン東芝ES株式会社が発売していますが、平成19年4月にオリンパスが後発でスコープ外筒にのみバルーンを付けたシングルバルーン小腸内視鏡を発売しました。原理は同じですが、ダブルバルーン小腸内視鏡考案者の山本先生曰く、「四輪駆動の車(ダブルバルーン)と二輪駆動の車(シングルバルーン)の違いで、どちらを選ぶか好みの問題でしょう。」

ダブルバルーン小腸内視鏡検査はとくに次のような症状・病気の方々にお勧めしています。
1) 消化管出血が疑われるが、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)と大腸内視鏡検査を受けても異常がなく、小腸の出血性病変を疑う場合
2) 小腸の通過障害(腸閉塞、小腸狭窄)が疑われる場合
3) 小腸に病変をつくる病気(小腸腫瘍、腸結核、クローン病など)の精密検査
4) 十二指腸の観察が必要であるが、胃と小腸をつなぐ手術を受けたことがあり、通常の胃カメラでは十二指腸への挿入が難しい場合

鎮静剤・鎮痛剤投与と入院の必要性 スコープはループを描いて挿入されますが、その際に腸管が引き延ばされ、鈍痛を感じることがあります。2つのバルーンを膨らませて、小腸を短縮する操作の時にも同様の鈍痛を感じることがあります。そのため、適時レントゲン装置でスコープの状態を確認するとともに、予め鎮静剤・鎮痛剤を注射して苦痛を和らげるようにします。腸が癒着していたり、腸管に炎症があるときは、腸管や腸間膜を傷つける危険性が高くなります。このような理由から、通常は入院して検査を受けていただきます

ダブルバルーン小腸内視鏡検査の合併症 他の内視鏡検査に比べ、特に合併症が多いというわけではありません。他の消化管の内視鏡検査と同様、スコープによる粘膜損傷出血、まれに穿孔[せんこう;腸に孔があくこと]が起こることがあります。ダブルバルーン小腸内視鏡検査特有の合併症として、経口的挿入の際、胃液が逆流して気管に入ったために生じる誤嚥性肺炎[ごえんせいはいえん]や、十二指腸にある膵液の出口付近を擦るために生じると言われている高アミラーゼ血症膵炎が報告されています。また、点墨(粘膜下層にごく少量の墨を注入して、印をつけること)の際に、出血したり、墨が腸管外に漏れて局所の炎症が起こることがあります。

ダブルバルーン小腸内視鏡検査でなく別の手段で小腸を調べる方法
1) 小腸透視(バリウムを使った造影検査):
 バリウムを飲む胃透視検査と同様の方法で行う場合(経口法)と、鼻から細い管を小腸起始部まで挿入し、その管からバリウムと空気を注入して撮影する方法(経管的二重造影法)があります。経口法は簡便ですが、小腸が重なって見えにくいことと細かい変化は捉えにくい欠点があります。経管的二重造影法は小腸に注入するバリウムの量をある程度調整でき、小腸を空気で膨らませることにより、胃透視と同様粘膜の凹凸を描出することが可能です。欠点は、バリウムが小腸全域に行き渡るのに個人差があり、時間がかかることです。

2) CTやMRIを使った断層撮影
 大きな病変(腫瘤や腸閉塞の程度)は分かりますが、小腸の粘膜病変(潰瘍や血管病変など)は検出できません。

3) カプセル内視鏡
 ダブルバルーン小腸内視鏡検査よりはるかに楽に粘膜病変の有無を調べることができ、期待されていますが、小腸に狭窄や閉塞がある場合はカプセル内視鏡が引っかかってしまう危険性があります。ギブン・イメージング社製のカプセル内視鏡は平成19年春に厚生労働省薬事・食品衛生審議会の承認を得、平成19年10月から保険診療として認められました<注>。カプセル内視鏡検査の対象は、残念ながら今のところ、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)と大腸内視鏡検査を受けても出血源が分からない消化管出血に限定されています。

<注>保険診療
 平成20年4月よりダブルバルーン小腸内視鏡検査の診療報酬が20,000円になりました。ただ、ディスポーザブルのスコープ外筒の価格だけで15,000円もするので、スコープの減価償却や人件費などを考えると、検査自体はまだ赤字でしょう。また、カプセル内視鏡の検査料は17,000円に据え置かれました(カプセル内視鏡自体の価格77,200円が別に要りますので、3割負担でも合計3万円近くかかります)。カプセル内視鏡の画像診断には約600万円のコンピュータシステムが必要で、1例の画像読影に医師が1時間近くかかりっきりになります(見落としを防ぐためには二人の医師が必要かもしれません)。内視鏡のメーカーは儲かっても、これで病院は採算が合うのでしょうか。

ダブルバルーン小腸内視鏡検査の利点 第一に高画質で小腸粘膜を観察でき、かなり小さな病変でも発見できることです。最大の利点は、発見された病変に対し必要に応じて生検[せいけん:病理学的診断のため組織の一部を採取すること]、内視鏡的ポリープ切除術、出血源に対する止血術、また腸狭窄にはバルーンを用いた拡張術など内視鏡的処置ができることです。本検査前に医師からよく説明をお受けになり、万一病変が発見された時には同時にこのような内視鏡処置を受けるかどうか、検査前にご検討頂き、御回答下さい

【申込に際して】
 検査の申し込み時に、検査の必要性、検査内容、検査の安全性・危険性などを医師からお聞きになり、その際手渡された資料をお読み下さい。検査について十分ご理解し、納得いただければ同意書に署名下さい(当日までで結構です。当日ご持参下さい)。必要に応じて内視鏡的処置をお受けになるか否かも意思表示下さい。

【前処置】
経口的挿入の場合 通常の上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)と同様です。
 前日:通常の上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)と同様、午後9時までは通常の食事、飲水が可能です。
 当日:朝から絶食して下さい。なお、常用されている飲み薬がある時は、当日朝に服用すべきかどうか前もって主治医にお尋ね下さい。

経肛門的挿入の場合 大腸内視鏡検査と同様です。
 次のA法もしくはB法のいずれかを医師の指示に従って行って下さい。
 なお、常用されている飲み薬がある時は、当日朝に服用すべきかどうか前もって主治医にお尋ね下さい。

 A法(経口腸洗浄剤を用いる方法)
   前日:せんいの少ない消化の良い食餌をお摂り下さい。便秘がちの方は下剤服用の指示がある場合があります。
   当日:朝から絶食です。午前9時に来院いただき、検査を申し込まれた科の外来にて腸洗浄剤を服用していただきます。

 B法(ブラウン変法)
   
前日:朝から検査食(低残渣食)をお摂り下さい。指示された時刻に下剤を服用下さい。水分は十分にお摂り下さい。
   当日:朝から絶食ですが、水分(茶、実のないジュース)はお摂りいただいて結構です。

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