ビクニンは副作用のないがん転移抑制剤です


ビクニンに関する薬剤情報

1.ビクニンはがん転移を抑制する薬剤です。
2.がんの増殖を止める作用は非常に弱いので、従来の抗がん剤ではありません。
3.抗がん剤のような副作用はありません。
4.持田製薬から「ミラクリッド」として発売されているものと同じです。
5.「ミラクリッド」には「がん転移抑制」としての保険適応はありません。
6.使用法は、抗がん剤(タキサン製剤とプラチナ製剤)を3週間毎に点滴するときに、「ミラクリッド」を1日30万単位を連日7日間注射し、これを抗がん剤投与と同じく3週間毎に注射します。保険適応はありません。
7.初回治療で進行卵巣がん(III及びIV期)の場合に抗がん剤治療とビクニン治療を併用すると予後改善に寄与する可能性があります。I期やII期の比較的早期の患者に使用した経験はありません。
8.再発などで腫瘍が存在するときにがんを治療するための薬ではありません。


 以上、ご理解のうえ以下の解説をお読みください。

ビクニン治療 (これは 患者様用 にわかりやすく説明したものです)

「ビクニン」はヒト羊水から発見した副作用のない

新しいタイプのがん転移抑制薬です

  1.ヒトの羊水、尿中および血中には「ビクニン」という物質が存在します

  2.「ビクニン」は炎症を抑える働きがあります

  3.「ビクニン」はがん転移を抑える作用があります

  4.「ビクニン」は持田製薬から発売されているミラクリッドと同じ薬です

  5.ミラクリッドはヒトの尿から精製した薬です

  6.毎日、30万単位以上注射することにより卵巣がんの予後を改善しました

  7.ミラクリッドには副作用が認められませんでした

図1


開発の経緯


  ビクニンは尿由来のトリプシン・インヒビター(トリプシンという消化酵素を中和する物質のこと;インヒビターというのは抑制するもの、という意味です) としての働きを持つ蛋白質です。以前はウリナリー・トリプシン・インヒビター urinary trypsin inhibitor (UTI;ウリナスタチン)といわれていました。 この薬は持田製薬から発売されているミラクリッド(商品名)と同じものです。ミラクリッドは現在、急性膵炎や急性循環不全の治療薬として保険適応があります。 しかし、残念ながら現時点ではミラクリッドはがん転移抑制剤や炎症を抑える薬としては保険適応がありません。

  我々の長年の研究により羊水・尿中のビクニンにはがん細胞の浸潤・転移を阻止する(制御する)能力のあることを見出しています。 図1にボイデンチャンバーというがんが浸潤する様子を顕微鏡で見る特殊な器具を用いて観察した結果を示します。これを見ると、ビクニンを添加したときに 浸潤したがん細胞の数が減っているのがわかります。黒く染まった粒々がそれぞれのがん細胞を示します。黒く染まった細胞が少ないということはビクニンによって がん細胞の浸潤が止まったことを示しているのです。


図2


ビクニンのがん転移抑制効果


  次にマウスを用いた動物実験でビクニンの効果を確認しました。

  まず、肺がんの細胞(ルイス肺がん細胞3LLというがん細胞)をマウスの皮下に移植し4週間後に観察しました。 この実験では3LLというがん細胞は2週間後にはすでに肺へ小さな転移を起こすことが分かっています。ですから、2週間経過してから手術をしてもすでに 肺に転移しているため、手術だけでは助からないのです。がん細胞をマウスに移植したときに、これと同時に7日間、少量(0.5 mg/日)のビクニンを マウスの腹腔内に注射すると、明らかに肺転移の数が抑制されました。ところが、皮下に3LLを移植し7日間放置してからその後に、前と同じ量0.5 mg/日のビクニンを マウスの腹腔内に注射しても肺転移は抑制されませんでした。つまり、ビクニンはがんを移植したあと、できるだけ早く使用しないと肺転移を制御することが できないのかもしれません。

  そこで、早期がんモデルとして皮下に3LLを移植して7日目に手術により皮下移植巣を完全に切除した実験系を作りました。 手術だけでもほとんど肺転移は抑えられましたが、ビクニンを併用することによりもっとよく(有意に)肺転移は阻止することができました。 同時に抗がん剤であるエトポシドを注射するとほとんどすべてのマウスは肺転移を認めず治癒しました。
  次に進行がんモデルとして皮下にがん細胞を移植して14日目に手術により皮下移植巣を完全に切除した実験モデルを作成しました。 この時点では先に述べたようにがんはすでに肺に転移しているので、手術のみではほとんど肺転移数は抑制されませんでした。しかし、これにビクニンを 併用することにより有意に肺転移数は抑制されました。同時に抗がん剤であるエトポシドを注射すると肺転移数は極端に少なくなり、長期生存するマウスも 認められました。しかし、ビクニン自身には抗がん剤のような強力な抗腫瘍活性、即ち腫瘍を縮小させる作用は認められませんでした。 あくまでも、がん転移を阻止する作用が主体です。

  さらに別な実験で、HRAというヒト卵巣がん細胞をヌードマウス(特殊なネズミ)の腹腔内に注射すると、注射してから9〜10日目にがん性腹膜炎 (おなかの中にがんがいっぱいできて腹水が貯る病気)を併発して死亡してします。この動物実験モデルを用いてビクニンの効果を再確認しました。 HRAはビクニン遺伝子を持っていないのでこのがん細胞にビクニン遺伝子を導入することにより、がん細胞の性格がどのように変化するのか実験しました。 ビクニンとは無関係なコントロールの遺伝子を導入したHRAとビクニン遺伝子を導入したHRA細胞を同様に腹腔内に投与すると、 コントロールマウスは9〜10日目にがん性腹膜炎を併発して死亡しましたが、ビクニン遺伝子を導入したHRA細胞を移植したマウスは4〜5日遅れて がん性腹膜炎を起こしました。しかし、このままだといずれ死亡してしまいます。 移植後9日目に比較すると、ビクニン遺伝子を導入したマウスには血性の腹水が認められず、がんが腹膜に広がることもほとんどみられませんでした。

  横隔膜下へのがん転移部を見ると明らかに異なり、ビクニン遺伝子を導入した場合には明らかにがん転移が減りました(図2)。


図3


ビクニンのがん転移抑制効果


  がん転移が止まっても、抗がん剤のように副作用が強くては困ります。しかし、ビクニンは抗がん剤とは全く異なり、すべてのマウスにおいて ビクニンを注射しても何も副作用は観察されませんでした。横隔膜下への卵巣がんの広がりを顕微鏡で観察した結果を図3に示します。 矢印で示した黒い転々ががん細胞です。ビクニンを使わないと左図のように、がん細胞はどんどん広がっていきます。しかし、ビクニン遺伝子を導入した がん細胞の浸潤は右に示すように、コントロール(左図)と比較して非常に軽いことがわかります。 つまり、ビクニンはがん細胞の浸潤を阻止していることが今回の顕微鏡写真からわかりました。

図4


ビクニンはヒトの進行卵巣がんにも転移を止める効果がある


  以上の実験的結果を踏まえて、ヒト卵巣がん患者において通常の治療を受けた時にさらにビクニンを使用した患者さんとビクニンを使用しない 患者さんにおいてビクニンを使った患者さんのほうが生存期間が長くなるかどうか検討しました(図4)。

  患者さんは主にIII期の進行卵巣がん患者で治療は卵巣がん根治手術後に通常の抗がん剤療法を6コース行ないました。 ビクニン30〜90万単位を抗がん剤と共に連続7日間点滴静注すると、ビクニンを使用しない患者さんより有意に生存期間が延長しました。 今後はより悪性度の高い膵がん、肺がん、大腸がん等についても医師主導型の臨床治験を行なっていきたいと考えております。

  現時点では、残念ながらビクニンは毎日患者に注射しなければなりません。ビクニンの効果を増強させる工夫をしたり、内服できる低分子薬の開発を行い 患者のコンプライアンスを高める努力をしております。このように、がん転移抑制剤の改良を行なうことにより長期投与可能な薬剤の設計・試作を行っていきたい と考えております。近い将来,がんと共存しながらQOL(生活の質)を高める新しい作用機序の薬剤(分子標的治療薬)が登場する可能性があります。

  ビクニンに関連した物質を探索中に大豆に含まれるKunitz Trypsin Inhibitor (KTI)にもビクニンと同様にがん浸潤・転移を抑制する作用を確認しました。 この点については後日お話させていただきます。



アイコン
患者様専用