スポーツ平衡

担当医師
和田佳郎塩崎智之

はじめに

スポーツを平衡機能の視点からアプローチします。

平衡機能とは、姿勢を安定に保ち、運動を円滑に行うための身体機能です。前庭感覚(頭の動きや重力の情報)、体性感覚(身体の情報)、視覚(外界の情報)の各感覚器、それらの情報入力を統合し制御する中枢神経系、その出力を実行する筋肉や関節などの運動器により成り立っています。

その中でも前庭感覚、特に重力感受性に注目したスポーツのパフォーマンス評価、新しいトレーニングやリハビリテーションの開発を進めています。

内容の一端をご紹介します。

重力感受性を評価する装置

簡便に重力感受性を評価する装置(頭部傾斜SVV装置)を開発し(図1A)、現在、健常人、めまい患者、スポーツ選手のデータを収集、検討しています。

図1A

方法は、頭部を左右に傾斜させ、その際の頭部傾斜角度と自覚的重力方向(SVV)から重力感受性(大小、左右差、偏りなど)を評価します(図1B, C)。

スポーツ選手に関しては、スポーツの種類や競技レベル、トレーニングの効果などにより重力感受性に違いや変化が生じることが分かってきています。

図1B

図1C

重力感受性を適正化する装置

図2A

重力感受性を適正化する装置(TPAD)を開発し(図2A)、現在、健常人、めまい患者、スポーツ選手に対する効果を検証しています。

TPADは、頭部を左右に傾斜させるとその方向や大きさに応じて振動子が左右の口角部位を刺激することにより正確な重力情報を身体に伝えます(図2B, C)。

これまでの検討結果から、TPADの装着により重力感受性を増強しその左右差を小さくする効果があることが認められています。

図2B

図2C

スポーツへの応用

体操トップアスリートの重力感受性

体操トップアスリートを対象に、ヒト用遠心加速器(図3A、B)を用いて様々な重力及び視覚条件下(図4上)での重力感受性を測定しました。

図3A

図3B

図4

健常人では重力の大きさや視覚情報の有無により重力感受性が大きく変化しましたが(図4下の棒グラフ)、体操トップアスリートの重力感受性はどの条件でもほぼ一定でした(図4下の折れ線グラフ)。

この結果は、体操トップアスリートは絶対的な重力感覚を持ち、どのような状況においても上下方向が正しく認識できることを意味しています。

TPADを用いたゴルフスイングトレーニング

TPADを用いてゴルフのスイングトレーニングを行っています。トレーニングの目的は、TPADを装着し(図5A)、ゴルフスイングを繰り返すことにより(図5B)、スイング中の重力感受性を高めフォームの安定化を図ろうとするものです。現在、モーションキャプチャ(図5C, D)や重心動揺計などを組み合わせた解析を試みています。

図5A
図5B
図5C
図5D

アドバイザー

下記のスポーツ科学やリハビリテーション学の研究者と共に、スポーツ平衡の研究に取り組んでいます。

  • 岡井理香先生(広島大学大学院教育学研究科健康スポーツ学講座)
  • 小野誠司先生(筑波大学体育系)
  • 河島則天先生(国立リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部)
  • 久代恵介先生(京都大学大学院人間・環境学研究科)
  • 為井智也先生(神戸大学大学院工学研究科)

(五十音順)

平衡機能に障害があるめまい患者から、平衡機能に秀でたスポーツ選手までを対象にすることにより、平衡機能の全貌が見えてくると考えています。その成果をめまいの臨床やスポーツ分野に役立てることを目指しています。

分野に関わらずご興味を持たれた方はぜひご連絡下さい。