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耳科・神経耳科外来

耳科・神経耳科外来とは簡単に言うと、めまい・耳鳴・難聴を診療する外来のことです。このような症状で来院された患者さんへの対応を、いくつかお示しします。

めまい・耳鳴の検査入院による診断と治療

めまい・耳手術外来、耳鳴外来と共同で行っております。

くり返しめまい発作を起こす病気には、メニエール病、良性発作性頭位めまい症といった耳の病気から、脳梗塞、脳腫瘍といった脳の病気まで、様々な可能性があります。また執拗に持続する耳鳴に関しても同様に、原因は耳の可能性のみならず脳の可能性もあります。「くり返し起こるめまい発作」、「執拗に持続する耳鳴」によって、日常生活に支障を来たす患者さんに対して、約1週間の検査入院を勧めています。入院していただくと、数ヶ月待ちの外来検査が入院中に一気に施行できます。

血液の流れの良し悪し、ストレス程度、耳石の不具合などを見るための血液検査

耳の具合と脳の具合を診断するための2種類の聴力検査

メニエール病の特徴である内耳の水腫を見るための造影MRIなど
(図1左:剖検例で赤矢印が水腫、図1右:造影MRIで白矢印が水腫)

半規管、耳石器、上下2本あるめまい神経それぞれの元気さを見るための神経耳科学的検査

ストレス、精神状態を知るためのアンケート

これらの検査を約1週間の短期入院にて一気にこなしていただくことで、結果を踏まえて適切な治療開始へのスムーズに流れます。いろいろな医療機関を渡り歩いていると、かえって症状を長引かせたり、適切な治療時期を逸することにもなりかねません。

メニエール病、良性発作性頭位めまい症に対する手術治療

めまい・耳手術外来と共同で行っております。

くり返しめまい発作を起こす病気の中にメニエール病、良性発作性頭位めまい症という耳の病気があります。メニエール病も良性発作性頭位めまい症も軽症であれば、比較的短期間のうちに生活指導や薬物治療で治ります。ところが中にはそのような治療に抵抗を示す難治性の患者さんがおられます。効かない治療を漫然と続けていると、メニエール病では片耳さらには両耳が非常に聞こえなくなってしまったり、良性発作性頭位めまい症では頭を少しでも動かすと強いめまいを感じて精神的に破綻を来たしてしまう場合もあります。

難治性メニエール病に対しては、内耳に溜まり過ぎたリンパの水はけを良くする内リンパ嚢開放術を行っています(図2A:右耳術野、図2B:側面)。

図2A:右耳術野

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図2A:右耳術野

図2B:側面

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図2B:側面

内リンパ嚢開放創にステロイドを局所留置することで、従来の内リンパ嚢開放術群や非手術対照群と比較して、より良好なめまい発作の完全抑制(図3A:めまい成績)と聴力レベルの改善(図3B:聴力成績)が期待できるようになりました。赤の囲みが本手術成績を示します。

図3A:めまい成績

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図3A:めまい成績

図3B:聴力成績

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図3B:聴力成績

難治性良性発作性頭位めまい症に対しては、剥がれた耳石が半規管の中を浮遊しないよう、骨パテで半規管を遮断する半規管遮断術を行っています(図4A:右耳術野、図4B:側面)。

図4A:右耳術野 図4B:側面

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図4A:右耳術野                  図4B:側面

中耳炎、耳硬化症、両側高度感音難聴の難聴への対応

難聴外来、難聴・補聴外来、小児難聴外来と共同で行っております。

中耳炎には細菌による炎症によって鼓膜や中耳腔が傷付く慢性中耳炎と、鼓膜上皮が何らかの原因で中耳腔側に入り込み骨を溶かして周囲臓器に悪さをする真珠腫性中耳炎があります。いずれも鼓室形成術という手術によって、鼓膜や中耳腔をきれいにして音の伝わりを改善させる治療を行っています。真珠腫性中耳炎の場合は、初回を真珠腫の清掃、2回目を音の伝わりを改善させる目的として、半年以上の間隔を空けて段階手術とします。
耳硬化症は欧米に多く日本には少ない病気ですが、中耳炎の炎症はなく、年齢とともにしだいに片方もしくは両方の耳のアブミ骨という音を伝えるための骨の一つが硬化していき、難聴、耳鳴が悪化します。これも手術で改善する難聴です。アブミ骨を取り外して人工ピストンに置き換えるアブミ骨手術です。アブミ骨は内耳というリンパの入った壺の蓋なので、術後一過性にめまいが生じる可能性があります。
両側高度感音難聴とは、補聴器等どのような増幅器をもってしても外耳、中耳から脳に音が伝わらない状況です。人工内耳埋込術とは、内耳に電極を埋め込み、外部からの音刺激により蝸牛神経を直接電気刺激する手術治療です。人工内耳の仕組みは、体外に「集音して電気信号に変換するための送信部」が装着され、体内に「電気信号を受信して蝸牛神経に伝達するための受信部」が埋め込まれ(図5A:人工内耳埋込図)、両者はお互いに磁石で連結されます(図5B:人工内耳装着図)。もともと聴こえていた成人患者さん以外に、生まれつき聴こえない2歳前後の子どもにも言語習得、知能発達のため積極的に手術が行われます。

図5A:人口内耳埋込図

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図5A:人口内耳埋込図

図5B:人口内耳装着図

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図5B:人口内耳装着図

めまい・耳鳴の基礎研究

1.メニエール病

「ストレス」と「めまい」という非常に曖昧な2つの事象を、「ストレス・ホルモン」と「内耳」というより具体的な2つの事象に置き換えて、両者の因果関係を探ってきました。

メニエール病、聴神経腫瘍の手術時に内リンパ嚢組織を採取し、水チャネル分子AQP2(aquaporin-2)の発現動態、細胞内局在移動を検索しました。水チャネルAQP2はストレス・ホルモンAVP
(arginine-vasopressin)の受容体であるV2R(V2 receptor)の細胞内情報伝達系によって調節されています。定量PCR法を用いてAQP2の相対的遺伝子発現量を測定し、免疫組織化学蛍光法を用いてヒト培養内リンパ嚢組織におけるAQP2陽性反応を検出し、いくつかの薬剤投与により蛍光輝度の変化を測定しました。

内リンパ嚢のAQP2分子は抗利尿ホルモンの投与で管腔側から基底膜側に移動し、同様の動きがcAMP作動薬でも認められました。受容体拮抗薬、Aキナーゼ阻害薬では管腔側に留まりました。AQP2分子とエンドゾームは2重に標識されました(図6:ストレス下の水チャネル細胞内トラップ現象)。ストレスにより抗利尿ホルモンが産生上昇し、内リンパ嚢上皮細胞内のV2R-cyclicAMP-Aキナーゼ-AQP2から成る情報伝達系の感受性が増大すると、管腔側のAQP2が基底膜側に移動しエンドゾーム内に貯蔵され、内リンパ吸収能が低下し、内リンパ水腫の発生、メニエール病の発症をきたす可能性が示唆されました(図7:ストレス下の内リンパ水腫発生・メニエール病発症機序仮説)。

図6A:ストレス下の水チャネル細胞内トラップ現象

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図6A:
ストレス下の水チャネル細胞内トラップ現象

図6B:ストレス下の内リンパ水腫発生・メニエール病発症機序仮説 拡大画像を見る

図6B:
ストレス下の内リンパ水腫発生・メニエール病発症機序仮説

ストレスによってメニエール病が発症するという認識に留まると、(いつまでたっても)患者さんに「ストレスの無い、ゆったりとした生活を送るようにしなさい」という非現実的アドバイスしかできないことになります。ストレス・ホルモンと内耳の分子生物学的相互関連を明らかにすることで、(将来的には)厳しい現代社会の第一線で活躍しながら、分子標的治療、遺伝子治療によりメニエール病を根治できると考えております。

2.耳鳴動物モデル

耳鳴を苦痛と感じ日常生活に支障を来たす耳鳴症患者は、一般人口の1-3%と看過できない比率です。しかしながら、実際の臨床の場における耳鳴治療はおざなりな薬物治療が漫然と続けられ、発展性に乏しいのが現状です。主たる原因の一つは、耳鳴の動物モデルが確立していないことにあります。
自施設で施行可能な耳鳴動物行動モデルを作成し、耳鳴発生に関与する分子マーカーの検討を行いました(図8:逃避行動実験による耳鳴動物モデル)。サリチル酸耳鳴の分子マーカーとして、痛み受容体TRPV1(transient receptor potential cation channel superfamily V-1)に着目しました。サリチル酸投与によってラットの耳鳴による反応行動が引き起こされ、らせん神経節のTRPV1mRNAの発現も上昇しました。また、TRPV1拮抗剤カプサゼピン投与によってラットの反応行動が抑制され、TRPV1mRNAの発現も抑制されました。以上のことから、サリチル酸投与による耳鳴の発生機序に、TRPV1が関与している可能性が示唆されました(図9:らせん神経節におけるサリチル酸耳鳴の発生機序仮説)。耳鳴は幻肢痛と類似した現象であり、内耳の感じる痛みであると考えると、痛み受容体TRPV1の耳鳴への関与は非常に興味深い所見です。
本研究により、耳鳴を動物行動学的、分子生物学的に可視化することが出来れば、「耳鳴発生の分子機構の解明」および「耳鳴の新規治療法の開発」が可能になると考えております。

図7A:逃避行動実験による耳鳴動物モデル

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図7A:逃避行動実験による耳鳴動物モデル

図7B:らせん神経節におけるサリチル酸耳鳴の発生機序仮説

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図7B:らせん神経節におけるサリチル酸耳鳴の発生機序仮説