奈良県立医科大学輸血部

研究

von Willebrand病と後天性von Willebrand 症候群

von Willebrand病(VWD)と後天性von Willebrand 症候群(AVWS)

奈良医大輸血部では、初代教授の藤村先生の時代からvon Willebrand 因子(VWF)研究を中心に活動してきました。特にVWFのマルチマー解析は、VWDの診断に使用できる鮮明な像を得るのが難しく、日本国内で診断の中心的な役割を果たしています。最近では、非常に高いずり応力が発生する循環器疾患でADAMTS13によるVWF過剰切断で発症するAVWSについて、東北大学加齢医学研究所(堀内久徳教授、山家智之教授)と共同研究しています。

 

von Willebrand病(VWD)

VWDは先天性疾患であり、その多くの遺伝形式は常染色体優性遺伝です。VWFの量的、質的異常で発症しますが、臨床症状としては、粘膜出血が中心であり、月経過多や鼻出血などが多いです。表1に示すように、1型はVWFの量的減少、3型は完全欠損、2型は4つに分類されていますが質的な異常症です。図1にVWDの代表的型のVWFマルチマー解析を示します。
日本人では1000例程度の症例が報告されていますが、海外からの報告よりかなり少ないです。日本ではVWDの専門家が少なく、正確に診断できないため、多くの症例が見逃されていることが危惧されています。

 

VWDの病型分類

 

VWDのマルチマー解析

 

後天性von Willebrand 症候群(AVWS)

AVWSは悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に伴ってVWFに対する抗体が産生されるタイプが古くから知られていました。近年、重症大動脈弁狭窄症に消化管出血が合併するHeyde症候群がAVWSであることが明らかになりました。狭窄した弁口を血液が通過する際に過度の高ずり応力が発生し、ADAMTS13によりVWFが過度に切断されることで2A型のVWDと同様の病態になることが明らかになりました。ただし、日本では臨床医の認知度はまだまだ低く、見逃されている症例が多くあります。高齢化により大動脈弁狭窄症の症例が増えていることから、その実態を把握するために、我々はAVeC研究(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/avec/index.html)を実施しています。さらに、植込型左室補助心臓(LVAD)や、経皮的心肺補助(PCPS)などの機械的補助循環によってAVWSが発症していることも明らかにしました。現在AMED研究として、ADAMTS13活性を阻害することでADAMTS13過剰切断によって発症するAVWSの治療薬の開発を行っています。