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小線源療法(ブラキセラピー)

小線源療法(ブラキセラピー)目次

ブラキセラピーを受けられる患者さんへ

 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は欧米、特に米国においては古くから行われている治療です。特にこの10数年は医療機器の進歩に伴い、治療成績が向上し積極的に行われております。日本では放射線物質の取り扱いに伴う法律等の制約のため、この治療が施行できなかったのですが、2003年に医療法、放射線障害防止法の法的な制約が緩和され、国内においても施行可能な治療法になりました。

 この治療法は一口で言うと、弱い放射線を発する小さなシード線源を前立腺内に埋め込み、前立腺内部から癌の治療を行うものです。日本及び米国の長期成績をみても、合併症が少なく、治療が簡便である上に、手術療法と比べても遜色の無いものです。また、高リスク症例では、ホルモン治療、外部照射と小線源治療を組み合わせたトリモダリティ(Tri-modality)の成績は手術を凌駕する成績です。ただし、すべての前立腺癌に適応できるものではなく、癌の臨床病期、悪性度、前立腺の大きさ等から治療対象とならないものもあります。また、非常にまれなケースではありますが、重篤な合併症もあるのが事実です。

 奈良県立医科大学においても、近畿地方では最初の施設として、2004年7月より治療を開始し、2019年5月末までに1377例の治療実績があります。現在、週に最大3名の患者さんを治療しております。今回、本院において前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法を考えておられる方へ、十分にご理解いただいた上で治療を受けられることをお勧めいたします。

2019年5月 文責:田中宣道

合併症

 ブラキセラピーは他の治療法と比べて、体への負担が少ない治療ですが、治療後に合併症が全く起こらないわけではありません。ここではよくみられる合併症について説明しています。

代表的な副作用

尿道・膀胱に関係するもの

排尿時痛、尿失禁、頻尿、尿勢低下、尿閉、血尿、夜間頻尿、会陰部不快治療後半年間に頻尿が多く(約70%)認められます。

直腸に関係するもの

直腸痛、頻便、軟便、便失禁、直腸出血、直腸潰瘍
直腸出血は治療後1-2年の間に20%程度の方にみられます。

性機能に関係するもの

勃起障害、精液量不足、射精時痛、性感の減退

治療直後

 前立腺が一時的に腫れるために、尿道・膀胱に関係する副作用が多く見られます。稀に尿閉(自分の力で排尿できない状態)になり、尿道カテーテルの挿入が必要となります(約2%)。また腰椎麻酔に伴い、髄液が漏出すると頭痛が起きることもあります。
 前立腺に細菌感染を起こし発熱した方は、今までにおられません。

治療から3-6ヵ月後

 前立腺の腫れは収まってきます。挿入されたシードの影響も小さくなってきます。これに伴い尿道・膀胱に関係する副作用も少なくなってきます。

治療後1年

 挿入されたシードが発する放射能はほとんどゼロになります。頻尿等の合併症はほとんどの方で改善します。

資料

ブラキセラピーで外来受診時に際して

 ブラキセラピーを希望され、当院外来を受診される際の注意事項について説明致します。

外来受診に際して、一般注意事項

 当院は基本的に時間による完全予約制になっております。そのため、他院からの御紹介患者さんの場合は新患扱いとなるため、予約患者さんの間をぬって診察することになります。待ち時間が長くなることも、あらかじめ御了解下さいますようお願い致します。
 また、検査の都合上、予約順にお呼びできないこともあります。
 特に、尿流量検査や前立腺超音波は、尿が溜まっていないと、十分な情報が得られないため、患者さんを長時間お待たせすることもございます。併せて、皆様の御理解・御協力を御願い致します。

他院で前立腺の生検を受けられた方の場合

前立腺癌の病巣の広がりを確認するため、以下のものをお持ち下さい。

  • 生検を受けたときの病理プレパラート 病理診断レポートコピー
  • 前立腺MRI (できるだけ前立腺造影MRI)
  • 骨シンチグラフィー

以上と、お持ちであれば紹介状を一緒に御持参下さい。当院にて再度、前立腺癌のステージを確認させて頂きます。御持参いただいた資料で足りないと判断した場合、当院にて再度検査をすることが有ります。
後日、結果の御報告・今後のスケジュール等を御相談させて頂きます。

当院で前立腺の生検を受けられた方の場合

 前立腺癌の広がりを確認するため、前立腺MRIと骨シンチグラフィーを受けて頂きます。プレプランと手術日については、別途御相談させて頂きます(予約状況や患者さんの都合に合わせて)。

ブラキセラピー、初診〜治療までの流れ

 前立腺癌と診断され、ブラキセラピーを希望される方々へ。
ここでは、初診から入院治療までの流れを説明いたします。

1.初診外来

当院で前立腺針生検を受けた方は、前立腺癌と診断された後、治療方針の決定のため、MRI、骨シンチ等の検査を受けていただきます。
 他院で前立腺癌の診断を受けられた方は、診断時のプレパラート、転移の有無を調べたMRI、骨シンチ等の画像を貸し出しして御持参下さい。
 諸事情で貸し出しが不可能な場合は、当院にて再検査させていただく場合がございます。
 治療の支障になるような大きい問題が無い場合、プレプランと手術日を予約します。
 また、前立腺が特に大きい場合、治療に先立ってホルモン治療を行う場合があります。

2.適応の決定 (初診から1〜2週間以内)

 生検時のPSA、生検時のプレパラート、MRI、骨シンチの結果を元に、ブラキセラピーを行うかどうか医師による会議で決定します。
 年齢が比較的若い場合や癌の進行が進んでいる場合、ブラキセラピー以外の治療を勧めることがあります。

3.プレプラン (治療の3週間以上前)

 当院では手術前に前立腺の精密測定を行っております。手術と同じ体位をとり、直腸から超音波で前立腺の型どりをいたします。この前立腺の大きさや形を元に、発注する線源の種類と個数を決定致します。
 この精密検査でブラキセラピーに適していないと判断することもあります。
また、2018年秋から、直腸線量を減らす目的に、前立腺と直腸の間にスペーサーと呼ばれる吸収性物質(SpaceOARR)を留置する治療を積極的に行っております。詳しくは説明文書をご覧下さい。

4.線量計算・線源発注 (治療日の約2週間前)

 プレプランのデータを元に、線源を発注します。一度発注した線源は返品できませんので、これ以降で患者さんの都合により手術が延期となった場合、線源代の実費を頂くことになります(特に抗凝固剤の内服中止には御注意下さい)。線源1個あたり6300円必要です。

5.入院(月曜日または水曜日)

 治療に大きな問題が無い場合は、治療前日に入院になります。病棟はC棟4階病棟です。治療後翌朝までは線源の脱落の予防、および法令の定めにより放射能管理区域を設定し、外出および面会の制限をいたします。

6.治療日 (火曜日または木曜日の午後)

 治療前に腸の内容物を除くため浣腸を行います。また治療日は絶食としているため、朝から夜まで点滴をいたします。麻酔は腰椎麻酔で行います。 治療時間は、麻酔にかかる時間も含めて1時間半から2時間程度です。
帰室後は翌朝までベッド上で安静になります。

7.治療翌日 (水曜日または金曜日)

 朝に採血があります。前立腺の腫れを抑える薬を内服します。夕方までは尿道カテーテルが入ったままで過ごしていただきます。夕方に線源の位置確認のための胸部・腹部・骨盤レントゲンおよびCTを撮影します。撮影後は尿道カテーテルを抜去します。前立腺の腫れが強く自排尿できない場合は、尿道カテーテルを再留置することがあります。
 退院までの間は、尿、便ともに線源の脱落がないかチェックしますので、一般便所の使用は控えて頂きます。放射線治療科医師の診察が午後にあり、治療後の生活指導等を行います。

8.治療2日目 (木曜日または土曜日)

 特に体調に異常が無ければ退院可能です。午前10時頃退院となります。

ブラキセラピーのプレプラン

 当院では、治療に先立ち前立腺の形状と大きさを測定しております。治療約3-4週間前の金曜日にプレプランおよび麻酔に必要な検査を行っています。

プレプラン

 泌尿器科外来・放射線治療科外来を受診して頂きます。泌尿器科では治療に関係すること、放射線治療科では治療や治療後の生活に関する注意事項を説明いたします。
 プレプランは、治療時と同じ体位(姿勢)で前立腺超音波検査を行い、前立腺の形状、大きさ等の情報を治療ソフトに入力します。
 プレプランの結果、ブラキセラピーを施行することが困難と考えられた場合(前立腺が非常に大きい場合、線源挿入が困難と考えられる場合など)、追加の治療を行うか、別の治療法を薦めることもございます。
 問題が無い場合、前立腺の大きさや形状を考慮して、線源の配置を考え(プランニング)、治療日の約2週間前に使用する線源を発注いたします。

線源発注に伴う御注意

 日本の場合、患者さん一人ずつに線源の発注が必要です。また、同じ線源強度で同じ個数を必要とされる患者さんが殆どいない為、他の患者さんへの転用は極めて困難となっております。このため、一旦線源を発注した後で、ブラキセラピーの治療を患者さんの都合でキャンセルされた場合、線源代の実費(約30万円)を頂くことになっております。
 治療予定日の約2週間前に線源発注をしておりますので、治療前の体調の管理には特に御注意下さいますようお願いいたします。

ブラキセラピーの入院日数と費用

平均的な入院日数と費用について。

入院日数

 月曜(水曜日)入院の木曜(土曜日)退院で、3泊4日で行っております。
ただし、治療後の回復が遅れた場合や、祝日を挟む場合は、多少日数は前後いたします。個室希望の場合は約2万円(4日間入院中、2日間は個室料が必要で、1日約1万円、2日分で2万円)が別途必要です。

かかる費用(自己負担が3割負担の場合)

 約30〜40万円になっております。線源数や、個室の使用日数に応じて多少金額は前後いたします。

ブラキセラピーの注意事項

 ブラキセラピーを受けられる上で、特に注意して頂きたい事項です。

治療のキャンセル

 プレプランが終わると、治療日の約2週間前に、個々の患者さんに必要な放射線量に見合う線源数を計算して、線源を発注いたします。患者さんの御都合で手術をキャンセルすることになった場合、同じ量の放射能を使用予定の他の患者さんが待機している場合を除いて、線源は他の患者さんに使用することができません。
 これまでも数例のキャンセルのお申し込みがあり、線源の転用を考えましたが、適当な患者さんが見つからず、線源を使用することなくアイソトープ協会に引き取って貰っております。
 使われなかった線源には保険が適応できませんので、実費(約30〜40万円)を患者さんに御負担頂いております。あらかじめ御了解下さい。
 手術日までは体調に気を付けて頂けますよう、お願い致します。
 ただし、やむを得ず手術がキャンセルとなった場合は、この限りでは有りませんので御相談させていただいております。

個室の使用料金

 個室利用を希望される場合は、3泊4日で約2万円の個室料(4日間入院中、2日間は個室料が必要で、1日約1万円、2日分で2万円)が必要となります。

治療後1年以内の注意

 治療後1年間は「治療カード」の携帯をお願い致します。また、その間に何らかの手術を行う場合には、手術を担当する医師から当院の担当医へ連絡するようにお願いいたします。万一、治療後1年以内に死亡された場合には、前立腺を摘出する必要がありますので、家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。よろしく御協力下さいますようお願い致します。

退院後の日常生活に関する制限

 治療後約2ヶ月間(2ヶ月間で放射能は半分になります)は、公衆、特に乳幼児、妊婦さんからはなるべく物理的・時間的に離れるようにしていただいております。また性交渉も、放射線を放出しているシードが精液中に排出される可能性も含め、1ヶ月間は避けるようにお願いしております(その後もコンドームの使用をお勧めします)。ただし、患者さんの尿、便、汗、唾液などの分泌物には放射能は含まれませんので排尿排便、入浴は術前と同じで構いません。シードから発せられる放射能はほとんどが前立腺で吸収され、周囲の人に与える影響は、自然界の放射能よりもずっと小さいことが知られています。過度に神経質になる必要はありませんが、体外に出る放射能が殆ど無くなるまで(約1年間)は御配慮くださいますようお願いいたします。

被曝線量

 ブラキセラピーは放射能を扱う治療です。治療を受けられた患者さんや周囲の方への影響を解説いたします。結論から言うと、ブラキセラピーは患者さんや周りの方に安全な治療法です。

一般的な被曝量の目安

飛行機搭乗 0.005 mSv(1時間当たり)
胸部レントゲン 0.05 mSv(1件当たり)
胃の検診 0.6 mSv(1件当たり)
胸のCT 6.9 mSv(1件当たり)
ブラキセラピー挿入直後の患者 0.0018以下 mSv
線源を挿入する医師
(患者さんから約0.5m)
0.0032 mSv(1回の手術)
線源挿入介助看護師
(患者さんから約1.5m)
0.0014 mSv(1回の手術)
シード線源による前立腺永久挿入密封小線源治療の安全管理に関するガイドライン 2004年より

被曝抑制の基準(実効線量限度)

一般の方
公衆 1 mSv(1年間当たり)
介護者 5 mSv(1行為当たり)
患者の子供 1 mSv(1行為当たり)
放射線従事者
男性 50 mSv(1年当たり)
女性(妊娠の可能性の有る人) 5 mSv(3ヶ月当たり)
女性(妊娠の可能性の無い人) 男性と同じ
放射線障害防止法 施行規則第1条 告示第5条より

まとめると・・・

 まず、実際には患者さんの体内に埋め込まれたシードからでてくる放射能は次第に弱まっていきます。
 同じ、子供を抱き上げるという行為を取ってみても、手術直後と1年後では、まったく被曝線量が異なります(1年後での放射能はほとんどありません)。
 挿入直後に子供を1時間抱いていた場合の線量は約0.1mSvとなります。
 いずれも、法令上の基準値よりもはるかに下回っております。 日常生活を送る上での制限は基本的にありません。ただ、周囲の方へ少しばかり被曝がありますので、患者さんには御配慮頂くよう(他人との接触時間を短く。接触距離を長く。)説明しております。

よく寄せられる質問

 ブラキセラピーに関してこれまで寄せられた質問です(本ホームページの別の部分で解説している事項は省略しています)。

1.前立腺癌と診断されました。ブラキセラピーは受けられますか?

 患者さんの病期や年齢等を考慮して、ブラキセラピーを行うかどうか判断しております。当院では基本的に、前立腺に癌が限局していると考えられる場合(T2以下)およびまた、被膜外進展(T3a) 症例にブラキセラピーを行っております。精嚢浸潤がある場合(T3b)の方は、高線量率小線源治療(HDR ブラキセラピー)を行っています。病理のプレパラート、画像診断(MRI、骨シンチグラフィー等)をお持ちの上、ブラキセラピー外来を受診して下さい。

2.以前、前立腺の手術を受けたことがあります。ブラキセラピーはできますか?

 経尿道的前立腺切除術を受けられた患者さんの場合、尿道や前立腺が大きく切除されており、線源の挿入が技術的に困難である場合が少なくありません。手術後長期間経過していて、尿道欠損部がほとんど無い方であれば可能ですが、手術後早期の方は適応外となることが多いです。

3.貴院ではブラキセラピーは何ヶ月待ちですか?

 当院では週に2-3例の患者さんを治療していますが、ブラキセラピーを希望される患者さんの数は少なくありません。令和元年5月現在で、約3ヶ月待ちとなっております。
 また、初診〜適応の決定までに約2週間、適応の決定〜プレプランに約1週間、プレプラン〜線源挿入までに約2週間、最低限かかりますので、初診〜入院までに約1ヶ月程度は必要です。
現在の待ち状況については、お問い合わせ下さい。

4.術後の海外旅行は大丈夫でしょうか?

 空港のセキュリティーレベルによっては、係官が放射線測定器による検査を行うことがあります。このような場合には、携帯している治療カードを提示し、必要であれば当院への問い合わせを依頼してください。海外旅行を予定されている方には、英語表記の治療カードも発行しております。

5.ブラキセラピーを受けた後、PSA値が上がってきました。

 ブラキセラピーを受けられた患者さんの治療効果は主にPSA値を参考にしております。線源挿入直後の数ヶ月程度は、針を刺入することによる炎症により一過性にPSA値が上昇することは稀ではありません。通常は数ヶ月後よりPSA値は徐々に下がってきます。
 また、治療後2-3年の間に一過性のPSA値上昇が見られるとの報告もあります(PSAバウンス現象)。
前立腺癌が再発しているかどうかは、慎重に判断する必要がありますので、担当医に御相談下さい。

6.ホルモン治療を受けたら、PSA値が下がりました。治ったのでしょうか?

 ブラキセラピーを受けられる前にホルモン治療を行う場合があります。前立腺が大きい場合、前立腺癌の病期が進んでいるおそれのある場合などです。通常、ホルモン治療を行うと、PSA値は速やかに低下し、時に検出感度以下になることも珍しくありません。
 ただし、これらの多くは治癒しえたのではなく、一時的に癌の活動を抑えただけと考えております。いずれホルモン剤が効かなくなってしまう時期が来ないとも限りませんので、その前に根治療法(ブラキセラピー、手術、放射線など)を受けられることをお薦めいたします。