高度肥満症に対する減量・代謝改善手術

はじめに

当科では2022年9月より,減量・代謝改善手術を開始しました.内科治療抵抗性の高度肥満症患者様に対する減量・代謝改善手術の一つである腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は,胃をスリーブ状に切除し,胃の容量を少なくすることで摂食制限を加える手術です.また同時に,食欲を刺激するホルモンを分泌する胃の上部をほとんど切除することで,食欲を抑える効果も期待できます.これまでの研究で,腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は,体重を減らすとともに糖尿病などの肥満症関連疾患を改善し,さらには生命予後の改善に寄与すると報告されています.当科では,糖尿病・内分泌内科 (髙橋裕教授) をはじめ院内の関係各部署と緊密に連携し,内科的治療抵抗性の高度肥満症に対する患者様に,外科的治療が安全に行えるよう体制を整えました.今後,内科治療抵抗性の高度肥満症に悩まれている患者様に最善の医療が提供できると考えています.

手術について

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術

腹腔鏡手術で胃の外側(大彎側)を,自動縫合器を用いて切除し,胃をバナナ状に形成し(100 mL 程度),胃の容積を小さくする手術です.現在日本国内で保険適応となっている術式はこの方法のみです.保険適応の基準は,BMI 35以上(条件によっては32.5以上)の方で6ヶ月の内科治療を行っても十分な効果が得られず,2型糖尿病,高血圧,脂質異常症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群の1つ以上を合併している方です.(詳しくは担当医までお尋ねください.)

減量・代謝改善手術による効果

胃を小さくすることにより摂取カロリーが制限されるとともに,胃からのホルモン分泌が変化し,食欲が抑えられ,糖代謝の改善効果が期待できます.
これまでに海外や国内でその改善効果が報告されておりその一部を紹介します.

  • 内科治療と減量・代謝改善手術との生命予後の比較 約4年後から死亡率に差を認め将来的には内科的な治療を行った群より減量・代謝改善手術を行った群の方が,生命予後の改善が得られるという結果が報告されています.
  • 内科治療と減量・代謝改善手術との減量効果の比較 減量・代謝改善手術を行った群は,内科的治療のみを行った群より約20%の減量効果が10年以上の長期間にわたり継続する結果が得られています.
  • 減量・代謝改善手術後の糖尿病治療内容の変化 術前98%の方が糖尿病に対する何らかの薬物療法を必要としていたものが,術後5年で約25%の方が糖尿病に対する薬物療法が不要となっています.
  • 減量・代謝改善手術後のヘモグロビンA1cの変化 術後約3ヶ月目以降からヘモグロビンA1cの値が有意に改善しています.

出典:Lars Sjöstrome et al, N ENGL J MED 2007,Philip R et al , N ENGLJ MED 2017他

手術合併症

他のさまざまな手術と同様に,減量・代謝改善手術でも手術合併症(手術併発症)は起こり得ます.本邦で報告された頻度の比較的高い合併症と重篤な合併症を紹介しますが,最大限の注意を払い,できうる限り合併症予防に努めてまいります.

胃食道逆流症
12.1%
創部感染
1.2%
胃管狭窄
1.1%
再手術が必要な出血
0.7%
縫合不全
0.5%
腹腔内膿瘍
0.2%
手術関連死亡
0.03%

出典:Ohta M et al, Asian J Endosc Surg 2020 in press

手術までの流れ

当科と糖尿病・内分泌内科を受診いただき,これまでの治療内容などを精査します.さらに双方の担当医が手術の適応があると判断した場合,当院での精密検査を経て,各関連部署での多職種カンファレンスを行い,最終的な手術適応や手術時期を判断します.手術が決まれば少なくとも1回以上の強化減量入院(約2週間)を行います.約5%の術前減量を目標とし,脂肪肝の改善や内臓脂肪の減少を目指します.手術のリスクを少しでも減らすことが,この入院の目的です.また初診時に継続的な内科治療が行われていない場合には,当院の糖尿病・内分泌内科で肥満および関連疾患の内科治療を受けていただきます.その治療結果に基づき,手術治療の適応を再度慎重に判断します.

手術後について

術後は,胃の容量が100ml程度に縮小するので,食べ方の工夫が必要です.減量効果を高め,栄養障害を起こさないために,当院の管理栄養士とともにサポートしていきます.具体的には,術後翌日から3日目までは水分や流動食を少量ずつ摂取します.退院後も含めた約5週間は半固形物を中心としたフォーミュラ食を摂取します.1ヶ月半から2ヶ月目には柔らかく調理した固形物,3ヶ月目からはほぼ通常形態の食事を摂取します.減量効果を維持するためには,長期にわたる術後の栄養・運動指導が大変重要となります.術後の栄養障害を回避しつつリバウンドを防止するため患者様を中心とした,外科医,内科医,栄養士などからなる多職種チームで治療にあたります.外科治療は高度肥満症に有効な治療法ですが,胃を切除すれば簡単にやせられるというものではなく,患者様ご自身でもライフスタイルを変える意志と努力が重要と言われています.