膵臓・胆道

はじめに

膵,胆道に関連する様々な疾患を対象としています.特に,悪性腫瘍(膵がん,胆管がん,胆嚢がん,乳頭部がんなど)に対しては,診療各科の緊密な連携の下,手術療法,化学療法,放射線療法などを組み合わせた治療(集学的治療)に取り組んでいます.中でも膵がんは,最も治療困難ながんと言われていますが,術前から術後へと綿密な集学的治療を行うことで,これまでにはみられなかった良好な治療成績を得ることができるようになっています.

膵がん・胆管がんに対する治療は,近年ますます高度かつ専門的になっており,一人の医師が独断で治療を担う時代は終わったと言えます.私たちは,お一人お一人の症状,治療に対するご希望,全身状態等をふまえながら,最善,最良の治療を実践していくことを常に目標にしています.奈良県立医科大学では,膵がん・胆管がんに対し,できる限り迅速に診断し,治療を開始することをモットーに,毎週の定例カンファレンスの他,各診療専門科の枠を超えて,多くの医師が現時点での最高の医療を提供できるようにリアルタイムの検査,治療を常に相談しながら行うよう努めています.また,有効で新しい膵がん,胆道がんの治療法を確立するために,臨床試験も積極的に行っており,治療の透明性,公益性を保つ努力も行っています.

なお,当院は奈良県唯一の都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受けています.また,奈良県立医科大学消化器・総合外科学教室は,日本肝胆膵外科学会高度技能医修練施設(A)に認定されています.

膵がんについて

1現況

日本では毎年3万人以上の方が膵がんで亡くなられており,現在,肺がん,大腸がん,胃がんについで,国内がん死因の第4位で,なお増加傾向にあります.有効なスクリーニング検査がないこと,特徴的な症状がないこと,がんの進行が早いことなどから,早期発見が非常に困難であり,進行した状態で発見,診断されることが多い病気です.手術が有効な治療とされているものの,最も治療が困難な疾患であることは間違いなく,さまざまな治療法の試みや検証が進められている状況です.

2症状

膵がんに特徴的な症状はあまりありません.上腹部痛や胃のあたりの不快感,なんとなくお腹の調子がよくない,食欲がない,などという一般的な消化器症状や体重の減少などが主なものです.なお,黄疸は,膵頭部に存在する膵がんを疑う症状として,特徴的なものといえます.黄疸の際には皮膚や目が黄色くなったり,尿の色が濃くなったりします.また,突然,新たに糖尿病を指摘されたり,糖尿病の治療中に血糖のコントロールが急に悪くなった場合には,膵がんが発生していることがあり,早めに精密検査を受けられることをおすすめします.

3診断

膵臓が体の奥にある臓器であることから,膵がんの診断はしばしば困難です.血液検査の他,CT,MRI等の画像診断,内視鏡検査などを組み合わせて行うことが必要で,それぞれの専門医の診断が必要となります.奈良県立医科大学附属病院では,複数科の医師が情報を共有し,正確な診断を下す努力を常に行っています.

  • 血液検査

    アミラーゼなどの膵酵素,ビリルビンなどの数値に異常を認めることがあります.また,CA19-9, CEA, DUPAN-2などの腫瘍マーカーに異常がみられることがあります.

  • CT検査

    CTはX線を用いて,非常に細かな画像を短時間で得ることができる検査方法です.最新のCT装置を用いて,膵がんの進展範囲と転移の有無の確認を行い,手術適応などを判断しています.膵がんの診断には必須の検査法です.

  • MRI検査

    MRIは磁気と電波を用いて,組織性状を詳しく検査する画像診断方法です.MRIの重要な役割の一つは肝転移の評価であり,造影剤を注射してMRIを撮像すると,CTでは検出できないような非常に小さな膵がんの肝転移も描出できることがあります.

  • 超音波内視鏡検査(EUS)

    内視鏡の先に超音波の検査装置がつけてあり,膵臓に近いところから,超音波を用いた検査をすることができます.また,超音波で確認した腫瘍を細い針で穿刺し,組織を採取することにより,確定診断を行うことができ,治療方針の決定に非常に重要です(超音波内視鏡下穿刺吸引組織診:EUS-FNA).

  • 内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)

    内視鏡の先端を胆膵管の出口である十二指腸乳頭部まで挿入し,胆管,膵管を直接造影する検査です.膵がんでは膵管の狭窄や途絶と,その上流の拡張所見が得られることがあります.狭窄所見があれば,狭窄部をブラシで擦過したり,膵液を採取することにより,膵がん細胞の有無を診断します. また,チューブやステントを用いて黄疸を治療する(減黄)こともあります.

4切除可能膵がんに対する治療

  1. 1手術

    膵臓の手術は,難度の高い手術であり,術後合併症の頻度が高く,時に重篤な合併症へと進展する可能性があります.合併症を少しでも減らし,早期に退院,社会復帰して頂くために,手術方法の改良も常に心がけており,より繊細かつ正確な手術を行っています.

    術式は,がんの位置によって異なります.十二指腸に近い方にがんがある場合は,膵臓の頭部(右側)と胃の一部,十二指腸,胆管を同時に切除する必要があります(膵頭十二指腸切除術).切除後は胃,膵臓,胆管の3カ所を小腸と吻合する必要があります.膵臓の尾部(左側)の場合には,脾臓を含めた体尾部切除を行います.腹腔鏡下に行うこともあります.通常,周囲のリンパ節を一緒に摘出します.またがんが周囲の動脈や静脈などの血管に浸潤している場合には,ともに切除(合併切除)を行うこともあります.

  2. 2術後補助化学療法

    手術が根治を得られる可能性の最も高い治療法ですが,手術のみで治ることは非常に少ないと言わざるを得ません.手術後に再発,転移がみられることもしばしばあります.再発,転移のよくみられる部位は,肝臓,局所(がんがあった近くの組織),腹膜,肺などです.術後の再発,転移を予防するためには,手術後の治療が非常に大切です.当施設では,放射線科をはじめとする複数の診療科と協力し,積極的に補助化学療法に取り組んでいます.特に肝転移再発は,術後早期におこり,また再発後の治療が難しいとされています.奈良県立医科大学附属病院では,これに対する対策として,術後肝動注療法(抗がん剤を肝臓に流入する動脈に直接注入する方法)を行っています.肝転移に対する予防効果は極めて高い結果が得られています.

  3. 3術前療法

    前述の肝動注による肝転移の抑制に加えて,局所再発を抑制するために,術前化学療法や術前化学放射線治療を導入しています.これは,術前に化学療法や化学放射線治療を行うことによって,腫瘍を縮小させ,顕微鏡レベルのがんの術後取り残しをなくし,画像診断では指摘できないような微小な転移病巣を制御することを目的としています.

奈良県立医科大学
消化器・総合外科教室の膵がん治療成績

A.膵がん切除例に対する集学的治療

切除可能な膵がんに対して,現在当科では,術前治療,手術,術後補助療法をセットで受けていただく集学的治療を標準的な治療としています.実際には,お一人お一人の状態とご希望に合わせた治療を行っています.

切除を施行した膵がんの治療成績は年々改善しています.中でも術前および術後の集学的治療を最後まで受けることのできた方の生存期間の中央値は,現在60ヶ月を超えています.国内外をみても非常に良好な成績であると考えています.

  治療完遂 非完遂
生存期間中央値 62ヶ月 16ヶ月
1年生存率 100% 71%
2年生存率 89% 29%
5年生存率 53% 0%
B.切除困難膵がんに対する治療
  1. 1全身化学療法

    全身化学療法では,抗がん剤の点滴や内服(飲み薬)により,全身のがん細胞を攻撃する方法です.最近の抗がん剤の進歩はめざましいものがあります.膵がんに対しても,ゲムシタビン(GEM)やTS-1といった抗がん剤を中心とした治療が行われ,従来ではみられなかったような効果が認められるようになりました.さらに,2011年に FOLFIRINOX(オキサリプラチン,イリノテカンなど4剤併用療法),2013年にGEM+アブラキサンと新しいレジメン(抗がん剤の組み合わせ)が膵がんに使用できるようになり,お受けいただく治療の選択肢が広がっています.肝心なことは,お一人お一人の状態,副作用等にあわせて,適切な抗がん剤,組み合わせで,がん治療,特に膵がん治療の信頼できる専門家の治療を受けられることだと思います.

  2. 2抗がん剤奏効後の膵切除

    近年の抗がん剤治療の進歩により,化学療法が奏効し,当初切除困難であった膵がんが,切除できるようになることをしばしば経験するようになりました.これらの膵切除術は,補助的外科切除あるいはConversion Surgeryと言われています.当施設におきましても,切除困難と診断した方に対して,化学療法が奏効した場合には,根治術を積極的に行うことにしています.現在までの検討では,局所にのみ進展し,切除困難と判断した方の約20~25%に切除を行うことができています.

Conversion Surgery

胆道がんについて

1現況

肝臓には多くの働きがありますが,胆汁(胆汁の主な働き:脂肪の消化を助ける)の産生は大切な一つです.肝臓で作られた胆汁は,肝臓の中に張り巡らされた細かな胆管に分泌され,最終的に十二指腸へつながります.胆道がんとは,その胆汁の通り道に発生するがんのことを指し,肝内胆管がん,肝門部胆管がん,胆嚢がん,近位・遠位胆管がん,十二指腸乳頭部がんがあります.現在,日本では毎年約1万8千人以上の方が胆道がんで亡くなられており,膵がんとともに,治療が困難な疾患として知られています.しかし,近年の診断・治療の進歩により,その成績は,確実に改善されつつあります.

2症状

胆管がんや十二指腸乳頭部がんでは,黄疸という症状(皮膚や白目が黄色くなったり,尿の色が濃くなったりします)が出ることがありますが,早い段階では無症状なことが多いと言われています.そのほかに多い症状としては,体重減少,上腹部痛などがあります.

3診断

胆道がんを診断し,切除の適応,範囲を診断することは,しばしば困難であり,高度な技術と豊富な経験が必要です.血液検査の他,CT,MRI等の画像診断,内視鏡検査などを組み合わせて行うことが必要で,それぞれの専門医師の診断が必要となります.奈良県立医科大学附属病院では,複数科の医師が情報を共有し,正確かつ迅速な診断を下す努力を常に行っています.

4治療法

  1. 1手術

    胆道がんの根治的治療には手術が必要です.手術方法は,腫瘍の部位により異なることになります.肝臓の近くにできたものには,肝臓の切除が必要ですし,逆に十二指腸側である場合は,膵臓の切除を含めた手術が必要となります.それぞれ難易度の高い手術となりますが,当科では,積極的な手術加療を行っています.

  2. 2化学療法

    切除が困難と考えられる場合は,抗がん剤を使用した治療を行います.また,痛みなどの症状に対し,放射線療法などを行うこともあります.

奈良県立医科大学
消化器・総合外科教室の特色

当教室は,少なくとも奈良県内において,最も多くの膵・胆道系の外科疾患を扱う施設であり,豊富な経験のもと,最先端,最善,最適な治療を速やかに提供することを目標としています.当教室のモットーは「全ては患者さん中心の臨床および研究(Patient-Centered Care and Research)」であり,われわれを信頼していただき,治療を受けていただく皆さんに満足していただけるよう,お一人お一人の状態,状況を考慮し,最大限の配慮を行いつつ,様々な新しい治療開発に臨み,さらなる治療成績の向上を目指しています.

奈良県立医科大学
消化器・総合外科教室の手術件数

膵臓の手術,特に合併症の多い膵頭十二指腸切除においては,手術件数が年間20-30以上の施設(high volume center)での術後合併症が低く,治療成績が良いとされています.当施設では,現在年間80例以上の膵臓の手術を行っています.

手術実績についてはこちらをご覧ください.

臨床試験について

当院では,治療が困難といわれている膵がんの予後向上を目指して,より効果の高い,より安全な治療法の開発に常に取り組んでいます.こういった様々な新しい治療を行うにあたっては,可能な限り,臨床試験として綿密に計画し,奈良県立医科大学倫理委員会や臨床研究審査委員会に諮り,治療の透明性,公益性を保つ最大限の努力を行っています.臨床試験として実施することで,治療の妥当性,有益性を客観的かつ科学的に評価することが可能となります.参加にあたっては,十分な文書による説明を心がけています.奈良県立医科大学独自の臨床試験と,国内外の他の主要医療機関とともに行う多施設共同臨床試験とがあります.下記の臨床試験の詳細については,遠慮なく担当医にお尋ね下さい.

  • 「術前治療後膵癌切除例の予後予測因子に関する臨床病理組織学的後ろ向き観察研究」
  • 「膵頭十二指腸切除術後surgical site infectionにおける術当日胆汁培養検査の意義に関する臨床研究」
  • 「膵癌におけるNectin Family制御による新規癌治療法の開発」
  • 「Borderline resectable膵癌に対するgemcitabine+nab-paclitaxel術前化学療法の生存期間に対する有効性・安全性に関する多施設共同第Ⅱ相試験」
  • 「浸潤性膵管癌切除後の残膵再発に対する再切除の意義の検討 -日本肝胆膵外科学会 プロジェクト研究-」
  • 「抗血栓剤服用が膵切除に与える影響についての検討」

治癒切除不能膵がんに対する

  • 「オキサリプラチン+イリノテカン+S-1併用療法(SOXIRI)― 第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験 ―」
  • 「体腔内脂肪量が膵体尾部切除術後術後膵液漏に与える影響についての検討」
  • 「切除不能膵癌摂食困難例に対する胃空腸バイパス術の有用性と課題」
  • 「切除不能局所進行膵癌治療におけるConversion surgeryの有用性の検討」
  • 「初診時切除不能で,非手術療法が一定期間奏効した膵癌に対する切除術(Adjuvant Surgery)の施行可能性・安全性・有効性の前向き観察研究 (Prep - 04 )」
  • 「膵体尾部切除での膵実質切断における脾静脈剥離-個別処理と脾静脈同時切断の多施設共同無作為化比較第Ⅲ相試験」
  • 「膵癌に対する膵頭十二指腸切除術後の晩期消化管出血危険因子に関する研究」
  • 「膵頭部癌に対する門脈合併膵頭十二指腸切除施行後の左側門亢症に関する研究」​
  • 「膵頭十二指腸切除術後膵液瘻grade Cの危険因子の同定-前向き観察多施設共同試験」
  • 「浸潤性膵管癌に対する集学的治療後長期生存例の臨床病理学的検討」