食道・胃(上部消化管)

はじめに

食道がん・胃がんなどの上部消化管の良性疾患,悪性疾患の外科治療を行っています.安全性・根治性・低侵襲性を心がけています.日本内視鏡外科学会技術認定医3名が中心となって,体に負担の少ない腹腔鏡,胸腔鏡の手術を中心に診療に取り組んでいます.
難しい手術の代表である食道切除に関しては,奈良県では唯一の食道外科専門医の認定施設です.食道外科専門医が手術および抗がん剤の治療,放射線治療などのマネージメントを行い,食道がん治療を行っています.

胃がんに関しても早期胃がんから進行がんまで,より専門的な知識と経験をもったチームで,安心して治療を受けていただけるように心がけています.
患者さんの体の状態と病気の程度を総合的に評価し,他職種,他診療科とも緊密な連携をとって,最良の医療を提供します.
積極的に高度先進医療を開発し,日常の診療に取り入れていきます.

対象となる疾患

  • 食道:食道がん,食道粘膜下腫瘍,食道裂孔ヘルニア,逆流性食道炎,アカラシア
  • 胃:胃がん,胃粘膜下腫瘍(胃GISTなど)

特色

  • 他職種・他診療科との連携による周術期(手術前から手術後までの期間)管理

    栄養管理,口腔ケア,呼吸器リハビリなどを積極的に取り入れ,安全な患者さんのケアを行っています.

  • 術後合併症を減らすための臨床研究

    術後合併症の原因を徹底的に検討し,合併症ゼロを目標に手術術式の改良に取り組んでいます.

  • 低侵襲手術・機能温存術式の積極的な導入

    積極的に腹腔鏡・胸腔鏡手術を導入し,患者さんの手術の負担を少しでも少なくするような努力を行っています.当科で伝統的に取り組んできた幽門保存術式をさらに改良し,術後の栄養状態の悪化を最小限にする努力を行っています.

  • 積極的な薬物療法

    化学療法・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法にも積極的に取り組んでいます.手術が困難な進行がんや術後の再発の患者さんに対しても,薬物療法をはじめとしたさまざまな治療法を行っています.全国規模の臨床試験から当院で行っているものまで,患者さんにわかりやすく説明し,一緒に治療していくことをお約束します.

治療法と治療成績

1食道がん

食道がんの治療は,進行度(ステージ)や,個々の患者さんの体の状態に応じて決定していきます.

  1. 1Stage0

    内視鏡治療で根治が望めるような早期がんに関しては,消化器内科と連携し,積極的に内視鏡的粘膜切除術を行っています.

  2. 2StageI

    内視鏡治療適応外の食道がんには積極的に手術を行っています.手術は胸腔鏡・腹腔鏡を用いた食道亜全摘を2008年より導入し,全国集計よりも少ない術後合併症率を達成しています.

  3. 3StageII, III

    術前化学療法(手術前に行う抗がん剤の治療)を行った後に,胸腔鏡・腹腔鏡を用いた手術を行っています.

食道がんの手術は患者さんの体への負担が最も大きい手術となります.手術が最も治療成績が良いとされていますが,患者さんの状態によっては放射線治療,化学療法,これらを組み合わせた放射線化学療法をおすすめさせていただくことがあります.消化器内科・放射線治療科とも密に連携し,個々の患者さんに最適な治療方法を提供していきます.また,大手術を支えるため,手術前からのリハビリ,口腔ケア,栄養管理をはじめ,手術後はICUでの集中治療を行い,きめ細やかな管理を提供します.術後の呼吸リハビリ,嚥下リハビリも積極的に行い,術後の肺合併症の予防に努めています.このような試みにより周術期の合併症は全国集計よりも低率となっています.食道がんの手術は外科のみではなく,消化器内科,麻酔科,口腔外科,放射線治療科,リハビリテーション科,薬剤部などさまざまな病院各部署との連携で成り立っています.大学附属病院は多数の専門の医療従事者がいるという最大のメリットを生かして,安全な食道がん治療を提供できるように努力しています.

2胃がん

胃がんの治療方法は大きく分けて,①手術,②内視鏡治療,③抗がん剤治療の3つです.治療方法はがんの進行度に応じて決定されます.
奈良県立医科大学附属病院では毎週,消化器外科医,消化器内科医,化学療法医,放射線治療医がカンファレンスを開いて,胃がんの治療法を検討しています.それぞれの専門家による密な連携が,われわれの病院の強みと考えています.

  1. 1外科治療

    がんを周囲のリンパ節などの組織を含めて切除します.代表的な手術は胃全摘,幽門側胃切除,幽門保存胃切除,噴門側胃切除などです.
    がんの占拠部位,大きさ,組織型,深達度および転移の有無などを正確に術前診断し,胃癌治療ガイドラインを基本として,治療方法を選択しています.高齢の患者さん,併存疾患をお持ちの患者さんでは,術後の体力などを考慮し,がんの進行度とのバランスを考えて,適切な治療方法を提案させていただきます.

    • 腹腔鏡手術

      腹腔鏡手術は,腹部に小さな穴を数カ所開けて,専用のカメラや器具で手術を行う方法です.通常の開腹手術に比べて,手術による体への負担が少なく,手術後の回復が早いことが期待されているため,最近では手術件数が増加しています.

      しかしながら,開腹手術と比べてリンパ節郭清が難しいこと,消化管をつなぎ直す技術の確立が十分とはいえないことなどから,通常の手術より合併症の発生率がやや高くなる可能性も指摘されています.このため日本内視鏡外科学会は,内視鏡外科手術を安全かつ適正に施行する技術を有し,かつ指導するに足る技量を有しているものに技術認定制度をつくっています.奈良県立医科大学附属病院の上部消化管外科では2017年9月時点で3名の技術認定医が在籍しており,すべての腹腔鏡手術に技術認定医が参加して,安全に施行することに努めています.

      早期がんに関しては全例を腹腔鏡手術で施行しています.また進行がんに関しても,多くの腹腔鏡手術を経験してきたので,基本的には腹腔鏡手術をおすすめしているのが現状です.

    • 高度進行がんに対する取り組み,術前化学療法

      大型3型,4型,高度リンパ節転移症例に関しては,術後の再発率が高く,術前に抗がん剤の投与を行う術前化学療法に取り組んでいます.

      事前に全身麻酔のもと審査腹腔鏡検査を行って,腹膜播種性転移,肝転移がない場合には,目に見えないがん細胞の制御,腫瘍の縮小,切除率の向上を狙って抗がん剤の投与を行います. 63%の効果が認められており,治療成績も良好です.

  2. 2内視鏡治療

    胃切除の必要のない患者さんには消化器内科と連携し,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)をおすすめしています.胃が温存されるため,術後のQOLは保たれます.

  3. 3化学療法

    治癒切除が得られない患者さん,術後再発の患者さんには,抗がん剤による治療をおすすめすることが多いです.この場合も患者さんの状態に応じた適切な抗がん剤治療を豊富な経験を持った医師が担当させていただきます.また,効果や副作用の情報が十分にある標準治療以外にも,新薬や既存薬の新規組み合わせなど,新たな治療法の開発を目的とした臨床試験に参加して治療を行う選択肢も提案させていただきます.

手術件数

手術実績についてはこちらをご覧ください.

臨床試験について

  • 「切除不能な進行又は再発胃がんに対する多施設共同無作為化試験(ニボルマブ オプジーボ®投与の無作為化試験 2017年12月まで)」
  • 「StageⅢの治癒切除胃癌に対する術後補助化学療法としてのTS-1+Docetaxel併用療法とTS-1単独療法のランダム化比較第Ⅲ相試験 JACCRO GC-07」
  • 「胃切除前における栄養療法がPNIに及ぼす影響の検討」
  • 「胃癌の術前補助化学療法施行中における栄養療法がPNIに及ぼす影響の検討」
  • 「迷走神経腹腔枝温存術式が胃切除後の栄養状態に与える効果に関するランダム化」
  • 「胃癌,食道癌患者における脆弱性及び栄養学的指標の意義についての検討」