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消化器内科のススメ

「初期研修後どの診療科を選択するか」に関しては平均40年とされる長い医師生活において生涯にわたってやりがいのある仕事をできる診療科を選択することが重要になります。「学生・研修医の皆様へ」の挨拶にも書きましたが、医師はどの診療科であっても仕事の性質上どうしても仕事の時間が他の職業よりも長くなる傾向にあることから「仕事の質は人生の質」に繋がります。そのため一番大切なことは自分が本当に興味のある分野を選ぶことです。しかし、それだけでは最初の10年は楽しく仕事をできても残りの30年毎日単調なことの繰り返しになってしまうリスクもあると思います。これから大きく変わる医療と時代の変化を個々のニーズに合わせてしっかりと把握して進むべき道を選択することが求められると思います。


「学生・研修医の皆様へ」の挨拶で学位制度が大きく変化したことを述べました。新専門医制度では基盤領域の専門医が必須となり全員が専門医を取得しますのでこれからは同様に多くの内科で学位を取得するケースが増えてくると思われます。しかし学位取得後の働き方には診療科により大きな違いが出てきます。将来の専攻科を決める際は医師としての大半を占める学位取得後の勤務についてもよく考える必要があると思います。多くの医師の場合、学位取得後は市中病院を中心とした勤務形態となります。1人〜2人の常勤医で診療が可能な診療科では医師としての長い期間を個人単位で診療を行っていくことになります。一方、消化器内科は内視鏡治療を始めとしてチームでの治療手技が多いため、5名以上のチーム単位で各病院に勤務しています。この場合は将来にわたって上級医からの指導を受けられると共に専攻医などの指導を行うなどお互いに刺激を受けながらの勤務医生活を送ることができます。また、消化器内科の手技は内視鏡やエコーを用いたものが多いため自分が取得した技術を市中病院で生涯にわたって発揮することができます。この点は消化器内科の大きな特徴であると思います。即ち、専門的医療が高度化し、大学や基幹病院で頑張って技術を習得しても一般病院では機器の問題などで行うことが難しいケースが少なくない中で、やりがいのある仕事を長く行えることは医師生活の質を考える上で非常に重要であると考えます。内視鏡やエコーの装置はほとんどの病院にありますので、消化器内科医はずっとやりがいを持って取得した技術を生かした仕事が継続できるというメリットがあります。奈良県はこれまで消化器内科医が不足してため消化器専門以外の医師も内視鏡などの検査を行っていた経緯があります。しかし新専門医制度では専門医資格の有無がこれまで以上に要求されますので、内視鏡検診などは将来的には内視鏡専門医でないと行えなくなる可能性があることから将来を見据えた診療科選択が必要となります。


女性医師の場合、出産、育休後の復帰についても進路選択の上で重要な要素となります(当科の出産後支援システムは「ママさん先生へのメッセージ」をご覧下さい)。子育てが一段落して復帰を考えた時にどれだけの需要があるかは給与面などに大きく影響してきます。単に外来診療をこなすだけの医師ではなく、内視鏡検査や造影超音波検査などのスキルを持っていれば本人の希望に合わせ半日から都合の良い曜日だけの勤務など個々のケースに応じた勤務形態に病院が合わせてくれます。現在でも多くの市中病院や検診施設で内視鏡などを行う医師は極端に不足しており医師派遣が全く追いついていない状況です。胃癌検診もこれまでのバリウム造影検査から精度の高い内視鏡検査に厚生労働省が方針を変更しました。奈良県では消化器内科医数は全国で46位と絶対的に不足しており「市中病院で広く長く使える」技術を持った消化器内科医の需要は今後ますます高まっていくと思われます。



今後医療分野においても人工知能(AI)が急速に進歩することが予想されています。画像診断などはクラウドを利用するなど今後様々な領域でAIに置き換わっていく可能性が高いと考えられています。内視鏡分野でも画像診断に関しては10年以内に多くがAI診断になっていくと思われます。しかし内視鏡治療や超音波検査は決してAIに置き換わることはありません。全身麻酔での手術などは患者さんの位置が治療中固定されますので、ダヴィンチ、3DプリンターとAIを組み合わせることで「ゴッドハンド」が再現できる可能性が指摘されており、5Gなどの通信技術の進歩により遠隔手術も可能となるとされています。一方、内視鏡治療や超音波検査は多くの場合患者さんが覚醒した状況で行いますので人間による臨機応変な対応が必須となることから消化器内科で覚えた手技がAIに取って代わられることはないとされています。


現在どの領域の医師が比較的充足しており今後どの領域の医師が必要とされるか、ということも進路を決定する上で非常に重要です。多くの専攻医はprimary careを含めたgeneralな診療が出来る医師になることを希望しています。そのなかで内科は診療の基本であり、特殊なケースを除いて「内科のない病院は存在しない」ことからもわかるように内科的知識を身につけておくことは今後40年間診療を行う上で有利になります。専門医制度において内科のサブスペシャリティーは多数に分かれており領域により患者数は大きく異なります。一般内科診療において消化器疾患の占める割合は非常に多くなっており、救急対応を含め市中病院でのprimary careを含めた診療に消化器疾患への対処能力は必須であると言えます。



また、今後日本は超高齢化社会に突入していきます。年齢別の死亡原因において60歳以上では圧倒的に悪性腫瘍が多くなっています。男女とも様々な腫瘍が原因となっていますが、消化器系の癌を合わせますと男女ともに半数を占めていることがわかると思います。即ち市中病院での診療においてもがん診療を避けることはできない時代となっていくなかで消化器癌の知識を持っておくことは今後重要になってくると思います。当科では早期の内視鏡的治療から全国でも有数の治験症例数を含めた最新の抗癌剤治療、緩和ケアに至るすべてのがん診療において十分な知識と経験を有した医師による指導を行っています。



生活習慣の変化によって日本人に肥満が増えてきています。肥満は糖尿病とも深く関係しており我が国においても糖尿病患者の増加が大きな問題となっています。人間ドックを受けた約25% に糖尿病(耐糖能障害)が見られますが、実は肥満と肝機能障害は並行してさらに増加しており最近では3人に1人が肥満で肝機能障害を有することが明らかとなっています。この多くは脂肪肝とされ、糖尿病を合併した場合は8割が進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であることが明らかになり生活習慣病におけるNASHの重要性が指摘されています。平成の初めにC型肝炎ウイルスが発見され、平成の終わりと共に治療の進歩によりC型肝炎ウイルスはほぼ排除できるようになりました。このため一部には「肝臓病には未来がない」という勘違いをする専攻医がいますがこれは大きな間違いです。日本肝臓学会の最新の全国調査ではウイルスに関係しない「非B非C型肝硬変」が4割を占めていることが明らかとなっています。「後期臨床研修」のところでも述べたように、今後「糖尿病と肝疾患」の領域は生活習慣病の増加に伴いますます一般診療において重要な分野になってくると思われます。肝臓は全身における代謝の中心であり、肝臓の働きと同じレベルの工場を作る場合東京ドームと同じ広さが必要になると言われています。内視鏡を中心とした手技に加えてまだまだ未知のことが多い肝疾患の領域を学ぶことで理論的思考が身につき、教科書に書いていない症例に遭遇した際に科学的根拠に基づいて冷静に対処できる能力が獲得できるようになります。



当科は経験豊富な指導スタッフがそれぞれの分野で充実しており、また研究体制も整っており、ここでしか学べないこと、経験できないことが数多くあります。当科のスタッフは「人を育てることが何よりも大切である」という考えのもと、若いドクターを指導しています。一人ひとりが充実感を持って仕事ができるように、相手の立場を尊重しながら、one for all, all for one の気持ちで教室員は日々診療や研究に携わっています。教室の姿勢に共感していただけるできるだけ多くの方々に加わっていただきたいと思いますのでお気軽にメールなどでご相談下さい。