患者様へ

集中治療

医療の原点は患者さんの痛みや苦しみに耳を傾け、症状を緩和することである。
臓器別、疾患別の専門的治療ももちろん重要であるが、疾患の治療に重点がおかれすぎると弊害も生じる。
ペインクリニックでは痛みを切り口として全人的にアプローチし、神経ブロックを主とした集学的治療を行っている。自分が痛くなったとき、自分でも受けたいと思える治療を患者さんに行うことが、われわれの目指す医療である。われわれの患者さんには、スタッフの身内の人や、病院内の看護師や医師が少なくない。このような身近な人々が、信頼して治療を受けてくれているという事実が、われわれのひそかな誇りである。

施設

ペインクリニック外来は病院本館2階、麻酔相談外来の向かい側にある。
4診まである診察室と11台のベッドを有する処置室に分かれている。外来診察は月曜から金曜日で、透視下ブロックは月曜の午後は手術室で、木曜と金曜の午後は中央放射線部で行っている。
入院は現在C棟5階に5床有している。2008年は一時、ベッド数が3床まで制限され入院患者数が減少したが、今後、増加が予想される。
スタッフは古家教授のほかペインクリニック専門医2名が常駐し、さらに2名の麻酔科スタッフが診療している。また、他の麻酔科スタッフや研修医のペインクリニック研修を随時受け入れている。どのような診療科でも良好な患者・医師関係は必要であるが、特にブロック注射という侵襲的な治療を行う際には重要となる。この観点から、当科では初診、診察、説明、処置(ブロック治療)、入院まで全て一人の医師が担当する主治医制をとり、患者さんからの信頼を得るよう努めている。

疾患

外来患者数は曜日によるばらつきあるが、1日40〜80人である。
対象となる症例は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの脊椎疾患、変形性股関節症や膝関節症、肩関節周囲炎などの関節疾患、帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛、術後や外傷後の難治性疼痛(CRPS)、ASOなどの末梢血行障害、癌性疼痛、脳脊髄液圧減少症、顔面神経麻痺や突発性難聴などの痛み以外の疾患群と多岐にわたる。

2008年の新患の内訳(計528人)を示すが、当施設に特徴的なのは脊椎や関節などの整形外科疾患が多く、全患者の34%をしめることである。経時的な傾向としては癌性疼痛の割合が減少している。これはWHOのガイドラインの普及と、当院緩和ケアチームの活躍によると考えられる。当科では脳脊髄液減少症の診断、治療を精力的に行っている。2006〜2007年の爆発的な症例数の増加(年間200人)は収束したが、それでもまだ数多くの患者が府県を越えて紹介されている。

当科の方針は脳槽シンチグラフィー、CT脊髄造影、MRI撮影を行い、厳密に髄液漏出を診断することである。
確定診断が得られた患者にのみエックス線透視下で硬膜外自己血パッチを施行し、パッチの効果をCTで確認している。確実な診断と治療により、ほぼ100%の治癒が得られている。
逆に、巷で流布されている脳脊髄液減少症に対する硬膜外自己血パッチの不確実さは、診断のあいまいさによるものと考えている。

治療

当科の診療方針は出来るだけ厳密に検査を行い、確実に髄液漏出が診断された症例について、透視下に確実に硬膜外自家血ブロックを行うことである。
多くの症例の経験から、RI脳槽造影よりCT[背髄造影の精確性や、硬膜外自己血パッチ直後にCTを撮影しパッチの評価を行う有用性などを学会報告してきた。結果、関西圏の多くの患者を紹介いただけるようになった。2013年からは硬膜外自家血パッチが先進医療で認められ、この1年間では10症例を漏出症と診断しパッチを行っている。
2014年4月現在で40症例を超す特発性脳脊髄液漏出症症例を経験し、ほぼ100%の治癒が得られた。一方、巷では脳脊髄液漏出症に対する硬膜外自己血パッチは有効性が低いと流布されているが、これは診断の不正確さに起因すると考えている。2002年頃を中心にむち打ち症患者に脳脊髄液漏出症が多く含まれるとの報道があったが、実際に外傷後脳脊髄液減少症と診断できる症例はわずかであった。むち打ち症に対する治療法は別にあり、自家血パッチではない。
精確な診断・自家血パッチの成績向上に努めることが我々の責務である。

新患数

2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
腰・下肢痛(脊椎・関節疾患) 153 88 100 114 91
頚・肩・上肢痛(同上) 74 49 67 57 47
帯状疱疹 108 94 114 110 104
癌性疼痛 15 17 15 15 8
術後・外傷後痛(CRPS) 31 23 21 21 32
末梢血管障害 7 16 11 20 6
頭痛・顔面痛(低髄圧を除く) 24 32 27 19 25
その他 8 5 14 15 26
低髄圧症候群の疑い 67 24 40 30 29
合計 487 348 409 401 368

年別X線透視下神経ブロック・手術件数

2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
胸部交感神経節ブロック 60 50 77 87 57
腰部交感神経節ブロック 86 63 85 110 65
内臓神経ブロック 5 11 7 3 7
三叉神経節ブロック 12 8 2 2 3
後枝内側枝高周波熱凝固法
頚部 35 18 14 20 5
胸・腰部 78 78 47 56 35
神経根ブロック(PRF含む)
頚部 147 198 243 243 203
胸部 83 91 60 156 237
腰部 530 432 443 375 505
経皮的椎間板摘出術
頚部 0 1 3 1 1
胸部 0 2 1 1 1
関節造影・パンピング 47 62 40 32 30
関節知覚枝高周波熱凝固法 34 35 49 9 1
透視下硬膜外ブロック 116 109 126 140 67
その他のブロック 9 27 13 20 16
硬膜外刺激電極埋め込み手術 17 19 15 10 21
自己血パッチ術 12 4 15 11 28
脊髄造影CT 3 5 15 7 22
合計 1345 1297 1319 1352 1405

治療

外来での治療としては、星状神経節ブロック(年間約4000件)、硬膜外ブロック(年間約3000件)、トリガーポイントブロック、関節内注入などを行っている。
透視下ブロックは、硬膜外刺激電極植込や経皮的髄核摘出術などの低侵襲手術や、硬膜外カテーテル挿入などの厳密な清潔操作が要求される処置は手術室で行っている。中央放射線部では神経根ブロックや椎間板造影、三叉神経ブロック、関節造影、関節知覚枝熱凝固、傍脊椎神経熱凝固、胸部・腰部交感神経節ブロックなど、あらゆるブロックを行い、2008年の透視下ブロック件数は1473例で、大学病院レベルでは全国的にも有数の症例数を持っている。

侵襲手術では経皮的髄核摘出(年間5〜10例)、椎間板ヘルニア加圧注入(年間数例)、硬膜外刺激電極挿入(年間20〜30例)を行っている。硬膜外自己血パッチは適応を厳密にしているため、2008年度は検査を希望して63人が受診されたが、確定診断ののちパッチを受けたのは5例であった。