子宮内膜症

子宮内膜症は子宮内膜腺または子宮内膜間質、またはその両者が異所性に存在するものと定義されます。腹膜面にこのような病巣がある場合を狭義の子宮内膜症(または外性子宮内膜症)、子宮筋層内にこのような病巣がみられる場合は子宮腺筋症(または内性子宮内膜症)と呼びます。子宮内膜症の発生病理は、月経血が腹腔内に逆流して子宮内膜組織が腹腔内に移植されると説や、子宮内膜がリンパあるいは血行性に転移する、あるいは腹膜や卵巣の組織が子宮内膜に化生あるいは誘導されるとの説など種々の学説が唱えられていますが、現在でも詳細は不明です。


1. 臨床症状
子宮内膜症の症状としては、月経困難症、腰痛、下腹部痛、性交痛、過多月経などがあげられます。これらの症状は、増加した子宮内膜組織からのプロスタグランディンの過剰産生や、子宮周囲の癒着などによると考えられます。また卵管周囲に癒着を来して、不妊の原因となることもあります。30-40歳代に最も多く発生するとされていますが、最近ではより若い女性にも数多くみられるようになり、全体でも増加傾向にあります。

2. 診断
子宮内膜症の確定診断は、腹腔鏡あるいは開腹して異所性の子宮内膜組織を確認することによってなされます。しかし実際に子宮内膜症を疑った患者全員に腹腔鏡や開腹手術を行うことは不可能であり、以下に述べるような問診所見や臨床検査、さらに画像評価を組み合わせて診断します。これらの臨床的手段により診断された子宮内膜症は”臨床的子宮内膜症”と呼ばれます。
問診では、上述した臨床症状の有無を確認します。これらの症状は他の婦人科疾患でも起こり得ますが、月経との関連して周期的に起こっている場合は子宮内膜症を疑います。内診所見では圧痛を伴う硬結、子宮の移動性の制限ならびに疼痛、癒着による子宮後屈などがみられることがあります。
画像診断では、内診と同時に施行できる経腟超音波断層法が有用です。卵巣チョコレート嚢胞は、卵巣実質内に存在する子宮内膜組織のために月経周期ごとに卵巣内で出血をくり返すことによって生じるとされますが、経腟超音波断層法で確認できます。またMRIも骨盤内の病変の評価に有用です。
臨床検査では血中のCA125の上昇を認める例が多いため、補助的に診断に用いられます。またCA125は治療により下降するため、治療効果の判定や治療後の再発監視にも用います。

3. 治療
子宮内膜症の治療は、症状、年齢、進行度、挙児希望の有無などを考慮して、薬物療法や手術療法、あるいはそれらを組合せて行います。
薬物療法は、症状を緩和する目的で行う対症療法と、子宮内膜症組織そのものをターゲットとするホルモン療法に分かれます。対症療法は、過剰なプロスタグランディンの産生を抑えるボルタレンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤が中心になります。ホルモン療法には、子宮内膜症組織に直接作用するダナゾール(ボンゾール)と、中枢に作用して最終的に女性ホルモン濃度を低下させ、子宮内膜症組織を萎縮させるGnRHアゴニスト(スプレキュア、ナサニール、リュープリン、ゾラデックスなど)があります。GnRHアゴニストは経口投与が不可能であるため、注射あるいは点鼻投与になります。しかしいずれの薬物療法の子宮内膜症の病変を根治出来るものではなく、いったん改善しても薬物治療を止めると再発ということもありえます。ダナゾールの主な副作用は肝障害や挫創、体毛の増加です。またGnRHアゴニストでは女性ホルモンの欠乏によるのぼせ・ほてり・不正出血・肩こり・頭痛・頭重感などの更年期様症状が出現することがあります。
手術療法には根治手術と保存手術があります。根治手術は病変をおこした子宮や卵巣を全て摘出、保存手術は病変だけを取り除き子宮や卵巣を温存する手術です。挙児希望がある患者は当然、保存手術を選択します。挙児希望のない患者では子宮は摘出することが多いですが、当科では少なくとも卵巣の一部を温存して女性ホルモン分泌を維持する手術をお勧めしています。根治手術を行った場合は、女性ホルモンが低下しますので年齢などを加味してホルモン補充療法を検討します。最近ではより侵襲が少なく術後の癒着も最小限に抑えられる腹腔鏡手術も行っていますが、強固な癒着のために腹腔鏡で開始しても開腹手術に移行せざるを得ない症例もあります。


問1 卵巣子宮内膜症性嚢胞から本当に癌になるのですか?

昭和60年から卵巣癌検診をはじめました。この検診では医師は内診と経膣超音波断層法を行い、診断名を検査依頼書に記載します。それと同時に腫瘍マーカーを測定するために採血をおこないます。初診時医師が良性卵巣嚢腫と診断したなかから数年後に卵巣癌になっている患者の多くがチョコレート嚢胞の患者でした。そこで、臨床的卵巣子宮内膜症性嚢胞を有した患者と有しないコントロール婦人(子宮卵巣に異常を認めない)を最長17年間追跡し卵巣癌発生を前方視的に調査しました。その結果、卵巣子宮内膜症患者6398例から46(0.72%)の卵巣癌が発生したのに対し、コントロールの57165例からは7(0.012%)の卵巣癌が発生しました。卵巣子宮内膜症患者の相対危険率は12.4 (95% confidence interval 7.9-17.3)となりました。したがって、卵巣子宮内膜症性嚢胞の一部は悪性化する能力を有していると思われます。


問2 ではどのような患者が癌化しやすいのですか?

卵巣癌を発症した卵巣子宮内膜症患者46例と発癌しなかった卵巣子宮内膜症患者6352例の背景因子をHazard modelで比較し、卵巣子宮内膜症の癌化に及ぼす危険因子を抽出しました。その解析項目は、患者年齢、閉経の有無、経産回数、結婚歴、ピルの服用状態、喫煙、癌の家族歴、卵巣子宮内膜症の最大径等です。発癌に寄与する相対危険率(オッズ比)の高い順に示すと、嚢胞の最大径10 cm以上が13.5、閉経後が8.6845才以上が8.12でした。その他の因子には有意差を認めませんでした。卵巣子宮内膜症の最大径6 cm以下では発癌は認めませんでした。しかし、他の施設では4 cmのチョコレート嚢胞から癌化した症例の報告もあります。したがって、発癌の危険を考慮すると、45才以上の閉経した患者で嚢胞の最大径が10 cm以上の場合には手術を勧めてよいと思います。

この研究は17年間にわたる日本における卵巣子宮内膜症からの癌化を疫学的に検討した初の前方視的研究から得られた結果であります。もっと症例が増えればより詳細な危険因子がわかるものと思います。

 

問3 子宮内膜症性嚢胞から発生した卵巣癌の嚢胞の大きさを具体的に教えてください。

臨床的子宮内膜症性嚢胞6398から17年間追跡中に発生した卵巣癌は46(0.72%)存在したことは前に述べました。これらの患者の腫瘍径を年齢別に示したのが1です。20歳代、30歳代、40歳代、50歳以上においてそれぞれ、251326例存在しました。表1には卵巣癌と判明した時の嚢胞の大きさを示しました。当然年齢と共に発癌率は増えていきますが、20歳代ではすべて10 cm以上の大きさ、30歳では1例が9 cmで残りの4例はすべて10 cm以上でした。40歳代になると7-8 cm2人、9 cm以上が11人となり、50歳代以上ではすべて6 cm以上で癌化していました。

このデータから言えることは、少なくても20歳代から30歳代では嚢胞のサイズが10 cmを越えるものは癌化の可能性を考慮すべきだと思います。一方、40歳代、50歳代では嚢胞のサイズが6 cmを越えないものには癌化した例はありませんでした。換言すれば6 cmを超えるサイズの嚢胞は臨床的には40歳代以上の場合には悪性化を念頭に置き、画像診断等で経過観察すべきでしょう。

 

問4 癌化した場合の子宮内膜症の組織学的特徴は何ですか?

卵巣子宮内膜症性嚢胞から発癌した46例の組織型別内訳を見ると、serous-type5(11)mucinous4(9)endometrioid16(35)clear cell18(40)であり、endometrioidclear cellでその75%を占めました。つまり、卵巣子宮内膜症から発癌した卵巣癌にはendometrioidclear cellが有意に多いことが特徴です。

 

問5 具体的にどのような経過で癌化していくのですか?

卵巣子宮内膜症性嚢胞から発癌するには、数年以上かかるようです。卵巣子宮内膜症からの発癌の話題とは直接関係ありませんが、発癌1年以上前から追跡できた卵巣癌患者はserous-type26例、non-serous-type42例存在しました。Serous-type26例をみると1年以上前の検診時に卵巣腫大が確認されていた(医師により卵巣嚢腫・良性卵巣腫瘍と診断されていた)症例は519%のみであり、残りの1981%は1年以上前の検診時には内診および経膣超音波断層法でも異常を指摘されていませんでした。これらの症例の多くが1年以内の短期間で癌化していました。一方、non-serous-type42例をみると1年以上前の検診時に卵巣腫大が確認されていた症例は3583%も存在しました。以上より、serous-typenon-serous-typeでは発癌機序に相違があるように思われます。つまり、serous-type1年以内に突然、de novoで発癌し発見されたときには癌性腹膜炎になっているような進展の仕方が多いように思われます。それに対し、non-serous-typeでは発癌のためにはある程度年数がかかるものと考えられます。これはadenoma-carcinoma sequenceに沿って発癌していくためなのかもしれません。

Serous-type1年以上前の検診時に卵巣腫大が確認されていた症例は5例ありましたが、この中で臨床的子宮内膜症性嚢胞と診断された症例は1例のみでした。しかし、non-serous-type1年以上前の検診時に卵巣腫大が確認されていた症例35例についてはこのうちの29例が臨床的子宮内膜症性嚢胞と診断されていました。しかも29例のうち20例についてはGn-RHaが使用され、ほぼ全例において月経痛等の臨床症状が改善し、また、子宮内膜症性嚢胞の縮小も認められていました。CA125値が測定されていた症例では、Gn-RHa治療に伴いCA125値も低下していました。その後、月経痛等の臨床症状が改善していたため患者は病院を受診しなくなったことも今回の調査で判明しました。つまり、子宮内膜症性嚢胞が発見された時点での月経困難症が、発癌時期にはそのほとんどが消失していたことは興味があります。

 

問6 具体的な管理法を例を挙げて教えてください。

例えば、48歳、2経産で7 cmのチョコレート嚢胞の患者が初診で来院された場合にどのように対応するのでしょうか。今まで私が述べてきた患者は過去の卵巣のサイズが経時的に把握されている症例です。したがって、増大傾向があったり、画像診断で壁に不整や隆起性病変が確認されたり、CA125が上昇してきた場合は悪性化を疑い手術をすすめてよいと思います。しかし、初診の場合は過去の卵巣の状態が不明です。まず、癌化の危険性があることを説明し、手術を希望される場合はoophorectomyによる組織学的確認を行うべきです。また、手術を望まなかった場合でも定期的(36ヶ月以内)に経過観察すべきでしょう。そして、増大傾向があったり、画像診断(経膣超音波断層法・MRI)で壁に不整や隆起性病変が確認されたり、CA125値が上昇してきた場合は悪性化を疑い時期を逸することなくoophorectomyを薦めたほうが良いと思います。

では、2030歳代0経産で7 cmのチョコレート嚢胞の患者が初診で来院された場合はどのように対応すべきでしょうか。いきなりoophorectomyをすすめてよいでしょうか。未婚女性や月経困難症あるいは不妊症を合併している場合で手術を考慮した場合は従来どおりcystectomyをすすめてよいでしょう。組織学的検索を行いatypismの有無を確認することは重要なのでcoagulationよりcystectomyが良いと思われます。経過観察しているうちに再増大を認めたり、画像診断で壁に不整や隆起性病変が確認されたり、CA125が上昇してきた場合は悪性化を疑い手術をすすめてください。この場合には嚢胞のサイズは9 cm以上になっていることが多と思います。

20歳代および30歳代の臨床的子宮内膜症性嚢胞の悪性化は「万が1か2」の発生であり、子宮内膜症性嚢胞を合併しない一般集団と同じ発癌率なので、過度に悪性化を恐れる必要はありません。したがって、この年齢を対象として不妊症を扱っている医師には癌化した患者の経験が少ないものと思われます。しかし、閉経期前後の子宮内膜症性嚢胞は明らかに悪性化の頻度が増加し、non-serous-typeの卵巣癌発生の素地となっている可能性があるため、「閉経すれば子宮内膜症性嚢胞は治る」と患者に説明することは注意を要します。さらに閉経期に増大する子宮内膜症性嚢胞は悪性化を見逃さないようにCA125と各種画像診断により評価してください。

 

問7 卵巣子宮内膜症性嚢胞と早期の卵巣癌を区別する方法を教えてください。

外来経過観察中に卵巣子宮内膜症性嚢胞と早期の卵巣癌を区別するために頻回にMRIを撮影することは困難です。鳥取大学の産婦人科の発表(第26回エンドメトリオーシス研究会)によると、経膣超音波断層法と血清CA125値を測定することにより卵巣子宮内膜症性嚢胞と早期の卵巣癌を区別することがある程度可能であることがわかりました。彼らによると血清CA12595 U/mlと腫瘍径7 cmをくみあわせることにより、87.3%の症例において鑑別が可能でした。