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膀胱がん

膀胱がんとは?

 ほとんどが膀胱の尿路上皮(粘膜)細胞から発生し、人口10万人あたり6.6人に発生し、60-70歳代の男性に多いがんで、喫煙が最大の危険因子です。膀胱がんには筋層に浸潤しない『筋層非浸潤性がん』と、浸潤する『筋層浸潤性がん』の2つのタイプに大別されます。非筋層浸潤性がんは膀胱外へ進展したり、転移(リンパ節や他の臓器にがんがうつる)することが少ない予後良好な腫瘍ですが、多発することが多く、術後再発も高率にみられます。一方、筋層浸潤性がんは、膀胱外へ広がったり、転移がみられることから、予後は不良です。

TNM臨床分類、ステージ分類

膀胱がんの進行具合を病期(ステージ)で分類し、治療方法を決定します。具体的には、膀胱鏡の所見、CT、MRIなどの画像所見により、T(病巣の深さ)、N(領域リンパ節転移の有無)、M(遠隔リンパ節、肺、肝臓、骨などの遠隔転移の有無)の三つの要素を判断し、病期を決定します。
Tステージである膀胱がんの深達度(病巣の深さ)は、画像診断検査や経尿道的膀胱腫瘍切除術 (別項参照) の病理結果により、Tis (上皮内癌,CISと呼びます)、Ta、T1、T2、T3、T4と分類されます。そして、がんが粘膜から粘膜下層にとどまっている Tis、Ta、T1を「『筋層非浸潤性がん』、筋層に及んでいるT2以上を『筋層浸潤性がん』に大きく二分し、治療法が検討されます。

ステージ分類

TNM臨床分類
@T-原発腫瘍の壁内深達度
  TX 原発腫瘍の評価が不可能
  T0 原発腫瘍を認めない
  Ta 乳頭状非浸潤癌
  Tis  上皮内癌(CIS)
  T1 上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
  T2 筋層に浸潤する腫瘍
     T2a  浅筋層に浸潤する腫瘍
     T2b  深筋層に浸潤する腫瘍
  T3 膀胱周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍
     T3a  顕微鏡的
     T3b  肉眼的(膀胱外の腫瘤)
  T4 次のいずれかに浸潤する腫瘍
     T4a  前立腺間質、精嚢、または子宮または膣に浸潤する腫瘍
     T4b  骨盤壁、または腹壁に浸潤する腫瘍
AN-領域リンパ節
  NX 領域リンパ節の評価が不可能
  N0 領域リンパ節転移なし
  N1 小骨盤内の1個のリンパ節転移
  N2 小骨盤内の多発性リンパ節転移
  N3 総腸骨リンパ節転移
BM-遠隔転移(肺、骨、肝、脳、リンパ節、骨髄、胸膜、腹膜、副腎、皮膚)
  M0 遠隔転移なし
  M1 遠隔転移あり
    M1a:総腸骨リンパ節をこえる遠隔リンパ節転移
    M1b:リンパ節転移以外の遠隔転移

ステージ分類 (第8版)

Stage T N M
0a Ta N0 M0
0is Tis N0 M0
T T1 N0 M0
U T2a,2b N0 M0
VA T3a,3b,T4a N0 M0
VA T1-4a N1 M0
VB T1-4a N2,N3 M0
WA T4b Nに関係なく M0
WA Tに関係なく Nに関係なく M1a
WB Tに関係なく Nに関係なく M1b

A.筋層非浸潤性膀胱がん

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT: transurethral resection of the bladder tumor)
内視鏡と切除ループを用いて膀胱腫瘍を切除する手術です。尿道から内視鏡を挿入するため、お腹を切ることはありません。切除した腫瘍は病理検査に提出し、がんの悪性度と深達度の診断を行います。

経尿道的膀胱腫瘍切除術

5-アミノレブリン酸(5-ALA)および蛍光を用いた膀胱がんの光力学的診断
2017年12月、経尿道的膀胱腫瘍切除における筋層非浸潤性膀胱がんの可視化ための診断薬として5-ALA塩酸塩 (商品名「アラグリオ」)が本邦で保険承認されました。5‐ ALAは哺乳類だけでなく、多種多様な細菌、植物、 動物において普遍的に存在、利用されている天然アミノ酸の1種であり、ヘモグロビンや葉緑素の原料となるへムタンパクの原料です。大量投与された5-ALA は細胞内に取り込まれると、数段階の酵素反応を経てヘムまで生合成されますが、その最終段階にあるポルフィリンが赤色蛍光を発生する「プロトポルフィリン\」です。腫瘍細胞においては、代謝酵素や細胞外排出機能などが破綻しているためプロトポルフィリン\が細胞内に過剰に蓄積し、青色光(波長400〜410nm) の照射により励起されてプロトポルフィリン\が赤色蛍光(波長630~ 635nm付近)を発します。この原理を利用して、手術時の至適切除範囲の設定、微小病変などの見えにくい平坦病変の検出などを介して、治療成績の向上につながっています。これを 光力学診断技術 (Photodynamic diagnosis, PDD) と呼び,当科では積極的に用いています。実際の術中の写真ですが,黄色矢印で示した部分が通常白色光では観察できず,青色光のみで観察できる病変(癌の部分)です。

5-アミノレブリン酸(5-ALA)および蛍光を用いた膀胱がんの光力学的診断

リスク分類(膀胱癌診療ガイドライン2019年版より)

リスク分類

術後単回膀胱内注入療法

TaおよびT1の筋層非浸潤性膀胱がんはTURBTで切除可能ですが、再発や進展を起こすことが知られており、術後補助療法が必要です。2,278 例の解析結果では抗癌剤単回膀胱内注入は再発の可能性を35%低下させたとの報告があります。使用する薬剤はエピルビシンやピラルビシンがあります。当院では低および中リスクの方には基本的に行っています。

中・高リスクに対する BCG 膀胱内注入療法

BCG(バチルス・カルメット・ゲラン)は ウシ型結核菌の弱毒菌 です。この溶液を膀胱内に注入すると、BCGは腫瘍部位に付着し、その細胞内部に取り込まれます。するとBCGと腫瘍細胞に対する免疫を生じ、強い炎症反応が起こります。このようなBCG反応において、免疫系細胞のマクロファージが活発に働き、腫瘍細胞を貪食・破壊していきます。一般的には、80 ミリグラム を生理食塩水 40 ミリリットルと混注し、カテーテルで膀胱内に注入します。状態によっては薄めて使用することもあります。注入後約 1〜2 時間は排尿を我慢してもらい、膀胱全体に液体が浸るようにします。注入後は安静にする必要がなく、移動・歩行が可能です。 ただし、終了後は指定の場所に排尿していただきますのでご注意ください。BCG導入療法とはこの操作を週 1 回、計 6回施行いたします。その後は数カ月ごとに BCG を膀胱内注入する維持療法という治療に移ることが多いですが、担当医が相談のうえ方針を決定します。

ただし、BCG 膀胱注入療法を行ったとしても、がん病変が消失しなかったり、すぐにがんが再発したりすることは少なくありません。現時点では、そのような場合は、膀胱全摘術が行われることが推奨されております。当院では、膀胱全摘術を回避し、できるだけ膀胱を温存できるような治療の開発を目指し、以下のような臨床治験を行っております(2022年1月現在)。もし臨床治験にご興味があれば、担当医にお尋ねください。

〇 Bacillus Calmette-Guerin(BCG)導入療法後に持続又は再発した高リスク筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)患者を対象としたMK-3475とBCG の併用療法の有効性と安全性を評価するための無作為化実薬対照第III相試験(KEYNOTE-676 治験)
 →詳細はこちらをご覧ください(臨床研究情報ポータルサイト)

〇 膀胱がん用剤「CG0070」の国際共同第V相臨床試験 (BOND3 治験)
 →詳細はこちらをご覧ください
 (KISSEI 膀胱がん用剤「CG0070(開発番号)」の国際共同第V相臨床試験参画のお知らせ)

B.筋層浸潤性膀胱がん

膀胱がんが筋層に浸潤している筋層浸潤性膀胱がんの場合、膀胱全体を摘出する膀胱全摘除術が標準治療になっています。膀胱を摘出すると尿をためる場所が失われるだけでなく、尿を体外に排泄する尿路も分断されます。そのため新たに尿路を作る尿路変更術も同時に行う必要があります。

術前化学療法

膀胱全摘除術を行う場合、基本的に術前化学療法を行います。化学療法の内容としてはGC(ゲムシタビン+シスプラチン)、Gカルボ(ゲムシタビン+カルボプラチン)MVAC(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)、Dose-dense-MVAC(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)療法があります。これらの具体的な投与スケジュールは以下です。

スケジュール

腎臓機能が少し低い方にはシスプラチンという薬剤の代わりにカルボプラチンという薬剤を使用します。これがGカルボ療法となりますが、多くの場合は3週1サイクルで行います。

スケジュール

スケジュール

ただし、内臓機能や体力面でシスプラチンやカルボプラチンなどの抗がん剤が使用しにくい場合がございます。当院では、シスプラチンやカルボプラチンの使用を回避し、より安全で効果的な薬剤を使用した術前化学療法の開発を目指し、以下のような臨床治験を行っております(2022年1月 現在)。もし臨床治験にご興味があれば、担当医にお尋ねください。

〇 根治的膀胱全摘除術を施行予定のシスプラチン不適格の筋層浸潤性膀胱
癌患者において周術期治療としてデュルバルマブをトレメリムマブ+エンホルツマブ・ベドチンと併用、若しくはエンホルツマブ・ベドチンと併用にて投与したときの有効性及び安全性を評価する第III 相無作為化非盲検多施設共同試験(VOLGA 治験)

〇 シスプラチン不適応又はシスプラチンを拒否した筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)患者を対象に周術期のペムブロリズマブ又はエンホルツマブ ベドチン(EV)とペムブロリズマブの併用療法を検討する第V相試験(KEYNOTE-905/EV-303試験)

ロボット支援下膀胱全摘術

腹部をメスで切開し、お腹を開けて膀胱を摘出する開放性根治的膀胱摘除術は、長い間筋層浸潤性膀胱がんの標準的な治療方法でした。しかし、膀胱を摘出し、新たな尿の通り道を作る必要があり、どうしても創が長くなります。そのため決して患者さんの負担は少なくありません。できるだけ楽に患者さんに手術を受けていただくために今までもいくつかの工夫がなされてきました。泌尿器科ではロボット支援前立腺全摘除術、腎部分切除術が以前より行われています。そのロボット支援手術の特徴を生かし、開放性手術よりも患者さんの負担を少なく行うために、ロボット支援根治的膀胱摘除術(Robot-Assisted Radical Cystectomy: RARC)が当院でも行われています。その特徴として、創が小さい、創部の痛みが少ない、創部感染が少ないといった点が挙げられます。以下は実際のロボット支援手術実施中の様子です。

ロボット支援下膀胱全摘術

体腔内尿路変更術

膀胱は尿をためる臓器なので、膀胱を摘出する際には、新たに尿を体外に出す処置が必要になります。膀胱全摘術後の患者さんが直面する最大の問題は、どのような形で排尿をするかということです。 一般的には、回腸導管、新膀胱造設、尿管皮膚瘻という三つの尿路変更法があります。当院ではロボット支援下での回腸導管、新膀胱造設術を行っています。それぞれメリット、デメリットがあり、がんの状態や年齢、全身状態、腎機能障害などの依存症、手術歴などを考慮し主治医とよく相談の上、決定します。

体腔内尿路変更術

膀胱温存療法とは?

 筋層浸潤性膀胱癌と診断された方の標準治療は 膀胱全摘除術 および尿路変更です。その場合、ストーマなどを造設して新たな尿路を再建する必要があり、手術の侵襲が大きいうえに,術後のストーマ管理など日常生活の負担も少なくありません。
当院では、筋層浸潤性膀胱癌と診断された方で、手術のリスクが高いと考えられた場合や、手術を希望されない場合に、膀胱温存療法 を提示しております。 対象となる方は、原則 筋層浸潤性膀胱癌 ( T ステージ: 2 〜 4 a ) と診断され、遠隔転移を認めない方です。全員の方に、膀胱温存治療が適応となるわけではないですが,膀胱全摘術ではなく膀胱温存療法ついても検討される方は、お気軽にご相談ください。

低用量ゲムシタビン併用放射線治療について

治療の流れ

1. できるかぎり腫瘍を減量するために、入院,麻酔のうえ,経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) を行います。これを、『マキシマル TURBT』と呼びます

2. 導入療法として、化学放射線療法を行います。放射線治療は、原則1回2Gy×20回(合計40Gy) を骨盤内に外部照射します。化学療法は、ゲムシタビンという抗がん剤を8回投与します。

3. 治療効果判定として、入院,麻酔のうえ、経尿道的に膀胱組織を採取し、病理検査に提出します。C理検査で残存腫瘍があれば、化学療法および放射線治療に対する効果不十分であると判断し、膀胱全摘除術を実施する必要があります。

4. 病理検査で残存腫瘍がなければ、地固め療法としてさらに化学放射線療法を行います。原則1回 2Gy×12回(合計24Gy)の外部照射、およびゲムシタビンを5回投与します。

5. 補助化学療法として、ゲムシタビン+シスプラチンによる抗がん剤を4コース投与します。

治療の流れ

合併症

放射線治療に伴うもの

皮膚炎、腸炎、膀胱炎、血尿、性機能低下、二次発がんなどが報告されており、治療中、治療直後(早期発生)、治療終了後数年たってから生じることもあります(晩期発生)。

化学療法に伴うもの

倦怠感、食思不振、嘔吐、下痢、便秘、骨髄抑制、肝機能障害、腎機能障害など

2019年に報告された論文では、筋層浸潤性膀胱癌と診断された25名に同様の膀胱温存療法を行い、21名(84%)が3年間遠隔転移がなく経過していたとの報告があります。
参考文献)
Coen JJ et al. Bladder Preservation With Twice-a-Day Radiation Plus Fluorouracil/Cisplatin or Once Daily Radiation Plus Gemcitabine for Muscle-Invasive Bladder Cancer: NRG/RTOG 0712-A Randomized Phase II Trial 2019; 37 : 44-51.

また、当院では、膀胱全摘術を回避し、できるだけ膀胱を温存できるような治療の開発を目指し、以下のような臨床治験を行っております(2022年1月 現在)。もし臨床治験にご興味があれば、担当医にお尋ねください。
〇 膀胱全摘除術を受けていない筋層浸潤性膀胱尿路上皮がん(MIBC)患者を対象として、TAR-200とcetrelimabを併用したときの有効性を同時化学放射線療法と比較する第3相、多施設共同、ランダム化試験(SunRISe2 治験)