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補助人工心臓などに伴う「出血症」を安全に防ぐ抗体薬を開発
酵素活性を完全に止めず「10〜20%残す」ことで血栓リスクを回避

 

奈良県立医科大学・血液内科学の松本雅則教授らの国際共同研究グループは、人工心臓などの医療機器の使用時に頻発する「出血症」を防ぐ、安全性の高いヒト化抗体「HA10」の非臨床開発に成功しました。本研究成果は、従来の止血因子を補充する治療法の限界を打ち破り、「過剰な切断ハサミを適切な範囲に調律する」という治療パラダイムを提唱するものです。本成果は、国際プレプリントサーバー「bioRxiv」にて公開されました。

 

ADAMTS13VEF

※注意:本研究に関する論文は、プレプリント(査読前)であり、今後内容が修正される可能性があります。

 

本研究の3つのポイント

1.医療機器が招く「謎の出血」の克服へ

重症心不全の命綱である「補助人工心臓」や「ECMO(体外式膜型人工肺)」は、血液に強い物理的負荷(ずり応力)をかけ、止血因子を過剰に切断して出血を引き起こす課題がありました。

2.「完全阻害」から「微調整」へのパラダイムシフト

原因酵素の働きを完全に止めると、逆に全身の微小血管に「血栓」が詰まる致死的な副作用(血栓症)が起きます。今回開発した抗体「HA10」は、酵素の働きを「10〜20%だけ残す」ことに成功しました。

3.霊長類モデルで安全性を実証

ヒトに近いカニクイザルを用いて、過剰に投与しても血栓症の副作用が出ない安全性を確認しました。今後、ヒトでの臨床試験(First-in-Human試験)への進展が期待されます。

研究の背景:命を救う医療機器が、なぜ「出血」を招くのか?

重い心不全の患者を救う「補助人工心臓(LVAD、Impellaなど)」や「ECMO」は、今や欠かせない医療技術です。しかし、これらの装置の中を血液が勢いよく通過する際、血液は強い「ずり応力(物理的な擦れ)」に晒されます。この強い力によって、血液中で糊のように働く止血因子(VWF)が無理やり引き延ばされ、血液中のハサミのような酵素(ADAMTS13)によって過剰に切断されてしまいます。これにより、患者の体内で血が止まらなくなる「後天性フォン・ヴィレブランド症候群(AVWS)」という凝固異常症が頻発し、患者のQOL(生活の質)や予後を大きく損ねていました。

成果の内容:あえて10〜20%残す「ブレーキの加減」

この過剰な切断を止めるため、酵素(ハサミ)の働きを完全にブロックすれば出血は止まりますが、今度は血が固まりすぎて全身の微小血管が詰まる「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)」という病気を引き起こしてしまいます。研究グループはこの課題を解決するため、ヒト化抗体「HA10」を開発しました。各種の構造解析技術(NMR、SAXS、SANS等)を駆使した結果、HA10は酵素の「ディスインテグリン様ドメイン」の止血因子(VWF)を捕まえるポケットに結合し、動的に競合することが判明しました。酵素の構造の柔軟性を利用することで、抗体を大量に投与しても、ハサミの能力が「10〜20%」だけ残るようになっています。この「10〜20%の残存活性」こそが国際血栓止血学会が定めるガイドラインにおける血栓症発症の危険ライン(10%未満)を回避し、出血を防ぎつつ血栓も作らないという「治療安全域」を生み出す鍵となりました。

今後の展望:臨床試験、そして製品化へ

本研究は、非ヒト霊長類(カニクイザル)を用いた安全性試験(GLP基準)においても、血栓症を誘発しないことが確認されており、実用化へ向けた基盤が整いました。本成果は、人工心臓やECMO管理下の患者だけでなく、重症の大動脈弁狭窄症(Heyde症候群)など、異常な血流ストレスが原因で起こる様々な出血性疾患の根本治療薬となる可能性を秘めています。今後は、ヒトでの臨床試験(第Ⅰ相試験)の開始を目指し、研究開発を加速させてまいります。

論文情報

タイトル:Calibrated ADAMTS13 inhibition prevents cardiovascular shear coagulopathy

著者:Kenki Saito#, Noriyoshi Isozumi#, Yasuyuki Shiraishi#, Yoshikazu Hattori, Kazuya    Sakai, Tomoya Ueda, Atsushi Hamamura, Ryota Imamura, Michinori Kayashima, Kotaro    Nakano, Tomoyuki Yambe, Hiroyuki Kumeta, Ryouta Shigehisa, Masashi Mori, Tomohiro    Imamura, Mari Nakanishi, Masayuki Oda, Shingo Kanemura, Masaki Okumura, Tatsuya    Niwa, Anne Martel, Lionel Porcar, Ken Morishima, Aya Okuda, Masaaki Sugiyama, Miki    Takatsuka, Nozomi Tomimatsu, Tomohide Saio, Shungo Hikoso, Eiichiro Mori*, Masanori    Matsumoto*  (#共同筆頭著者、*共同責任著者)

公開先:bioRxiv(プレプリントサーバー)

公開日:2026年8月4日(火)

DOI:10.64898/2026.08.03.742456

※ 本プレスリリースは、大阪科学・大学記者クラブ、奈良県政経済記者クラブ、橿原市政記者クラブ、PR TIMESに同時配布しております。

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