難聴・補聴

担当医師
西村忠己

はじめに

難聴、補聴外来はコミュニケーションに欠かせない聴覚を取り扱う外来です。難聴の原因となる様々は疾患に対する診断、治療、またコミュニケーション障害を改善のため補聴器のフィッティングや人工内耳の手術を行います。特に当施設は補聴器医療に積極的にかかわっており、日本全国で使用されている補聴器評価のための標準的なアンケートである「聞こえについての質問紙」の作成、補聴器適合検査のガイドラインの作成、補聴器適合に関する診療情報提供書の作成などに貢献してきました。また一人でも多くの難聴者の聞こえが改善できるように、外耳道閉鎖症に対する軟骨伝導を用いた補聴器、重度難聴者でも使用可能な骨導超音波を用いた補聴器など新しい補聴器の研究開発も行ってきました。このうち軟骨伝導補聴器については臨床試験を実施し良好な結果を得ることができ、2017年11月に新しい補聴器として発売されました。

難聴の診断

難聴の原因となる疾患は様々で、疾患によって治療方法が異なります。適切な医療を行うためには原因や病態を明らかにしなければなりません。症状やその経過は特に重要で診察時に詳しくお尋ねします。続いて耳の状態を診察します。外耳道や鼓膜など外部から観察できる部位は顕微鏡や内視鏡を併用し評価します。中耳内耳など外部から観察が難しい部位についてはCTやMRIなどで評価します。さらに難聴の診断には後述する聴覚機能検査が必須となります。当院では様々は検査が実施可能であり、それらの検査を駆使し診断します。また遺伝性難聴が疑われる例では遺伝子カウンセリングや必要な検査を実施しています(別項参照)

診察の様子

難聴は大きく分けて感音難聴と伝音難聴に分かれます。当院に通院されている感音難聴の患者さんには突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、メニエール病など比較的頻度の高い疾患以外に聴神経腫瘍、神経線維腫症、ステロイド依存性感音難聴、特発性両側性感音難聴、遺伝性難聴など稀な疾患の方も多数おられます。伝音難聴には外耳道閉鎖症、外耳道狭窄症、耳硬化症、耳小骨奇形、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎など様々であり、その病態に応じて外来処置や手術治療を施行したり、補聴器のフィッティングを行います。

聴覚機能検査

難聴の診断と治療には聴覚機能検査は重要で不可欠です。当院でおこなっている聴覚機能検査は純音聴力検査、語音聴力検査、内耳機能検査(SISI、DLSI)、後迷路機能検査(自記オージオメトリ)、耳鳴検査(耳鳴外来参照)、耳音響放射、蝸電図、聴性脳幹反応、聴性定常反応、小児聴力検査(聴性行動反応、条件詮索反応(小児の難聴については小児難聴外来参照))、インピーダンスオージオメトリ(ティンパノメトリ、アブミ骨反射)、補聴器適合検査など多数あり、耳鼻咽喉科専属の熟練した臨床検査技師1名、言語聴覚士3名が検査を担当します。検査を行う部屋は防音室になりますが、当院は2室あり、うち1室は全国でも数少ない約5m×5mの大きな防音室で、補聴器適合検査や小児の聴力検査、蝸電図、聴性脳幹反応などの誘発検査を行うのに最適な環境となっています。

聴力検査の様子

補聴器適合検査

補聴器がきちんと耳に合っているかどうか評価する検査が補聴器適合検査です。評価する方法はいくつかありますが、それらを組み合わせて総合的に評価しなければなりません。補聴器適合検査について日本聴覚医学会のガイドラインでは表に示す8つの方法が示されています。

語音聴力検査と騒音許容度の測定の2つは補聴器を調整するごとに行う必須項目で、それ以外の6つは適合状態を評価する上で有益な情報が得られる参考項目です。当院では十分な設備が整っており、適合検査のガイドラインで示されている検査のほぼすべてを行うことが可能です。

適合検査指針(2010)に示されている検査項目

※赤字は当施設で実施している項目

  1. 語音明瞭度曲線または語音明瞭度の測定
  2. 環境騒音の許容を指標とした適合評価
  3. 実耳挿入利得の測定(鼓膜面音圧の測定)
  4. 挿入形イヤホンを用いた音圧レベル(SPL)での聴覚閾値・不快レベルの測定
  5. 音場での補聴器装用閾値の測定(ファンクショナルゲインの測定)
  6. 補聴器特性図とオージオグラムを用いた利得・装用閾値の算出
  7. 雑音を負荷したときの語音明瞭度の測定
  8. 質問紙による適合評価

補聴器を装用したときに大きな問題となる1つが雑音下での聞き取りです。雑音負荷検査に関して、国際的な標準規格では刺激を出すスピーカを正面に配置し、雑音負荷するためのスピーカは左右45度の位置に配置する必要があります。しかしこのような測定環境を実現できる施設は限られており、ガイドラインでは正面のスピーカから信号音と雑音を呈示することを許容しています。しかし当院では設備が整っていることから国際規格で示されている理想的な環境である左右45度の位置に配置したスピーカより雑音負荷を行って検査しており、より信頼性のある結果を得ることが可能となっています。

音場での検査の様子

実耳挿入利得の測定の様子

難聴の治療

難聴外来(毎週木曜日午前)

感音難聴に対する治療は保存的治療(点滴や内服薬の投与)が中心となります。突発性難聴に対しては1週間の点滴治療を外来で実施してますが、糖尿病などの合併症がある例では入院で治療します。急性低音障害型感音難聴、メニエール病などの変動する難聴では、症状に合わせて内服薬を投与し、症状の悪化時に迅速に対応できるように定期的に診察しています。ステロイド依存性難聴など特殊な例については各疾患に合わせた最適な治療を心掛けています。

伝音難聴については手術で改善が期待できることがあります。鼓膜穿孔がある慢性中耳炎では一時的に鼓膜を閉鎖することでどの程度聴力が改善するか評価し手術の適応を診断します。CTなどの結果から耳小骨に病変があればその部分の清掃が必要になることもあります。耳硬化症などのアブミ骨の動きが悪い例に対しては人工のアブミ骨を挿入するアブミ骨手術を行っています。

治療による改善が困難な難聴あるいは外科的治療などを希望されない場合は補聴器のフィッティングを行っています。なお難聴が重度で補聴器の効果が不十分な場合は人工内耳についての説明を行い、手術を検討していただいています。

診察の様子

人工内耳の説明をしている様子

補聴外来(毎週月曜日午後)

補聴外来は大きく分けて新規に補聴器をフィッティングする場合と所有している補聴器の評価、調整を行う場合に分かれます。

新規に補聴器をフィッティングする場合、まず聴覚機能検査を行い適応の診断、装用耳の決定を行います。聴覚機能検査の結果から予想される装用効果を説明し、補聴器に対する希望(機種、外観、価格)を確認します。それらの結果を踏まえ最適と思われる補聴器を準備しフィッティング当日に試聴していただきます。フィッティング当日は装用した状態で効果を評価し、合っているかどうか診断します。適合状態が良好で効果が期待できると診断できればその補聴器を貸出しし、実際に生活で使用していただき効果を確かめていただきます。さらに試聴結果で補聴器を再調整したり、機種変更して試聴していただき、満足の得られる装用効果が得られることを目指します。

補聴器を所有しているがその効果に満足が得られていない場合は、まずは問診などで問題点を整理します。次に聴覚機能検査をおこない、聴覚機能のどの部分に問題があるのか(語音明瞭度が悪いのか、補充現象が強いのかなど)評価します。その上で補聴器適合検査を行い補聴器の装用効果を評価します。それらの結果から補聴器の調整に問題があるのか、耳の聴覚機能の障害が原因で効果に限界があるのかを診断、最適な対処法を提案します。

補聴器のフィッティング

補聴効果を説明している様子

補聴器を使いこなすためには訓練が必要で、装用を継続することで聞こえに対する印象も変化します。長期的な補聴効果の評価のため,装用後約3ヶ月の時点で再診していただき,問診や適合検査などで装用効果とその変化について評価します。それを踏まえて音質の調整などを行い、その後は必要に応じて3から6ヶ月ぐらいの間隔で再評価をします。

軟骨伝導補聴器外来(第1,3,5木曜日午後)

軟骨伝導補聴

外耳道が閉鎖あるいは難治性の耳漏がある場合、通常の補聴器では対応が困難です。このような例ではこれまで骨導補聴器で対応する必要がありましたが、固定のためにヘッドバンドを装着する必要があり、装着部に圧痛、発赤、凹みが生じるなどの欠点があります。耳の後ろに手術でネジを取り付けて音を聞かせる新しいタイプの骨導補聴器がありますが、手術が必要であること、創部の感染などの問題があります。

軟骨伝導補聴器の装用図(左:装用前、右:装用後)

我々は耳の軟骨にある種の振動子を接触されることで良好な聞こえが得られることを発見し、軟骨伝導と名付けました。この軟骨伝導を用いて外耳道閉鎖症の方でも快適に使用できる補聴器を開発しました。軟骨伝導補聴器の外観を図に示します。見た目は小型の耳かけ型補聴器とほぼ同じであり、装着するために振動子を圧着する必要はありません。手術の必要もなく装用感に優れています。実用化に向けた臨床試験を実施し多数の外耳道閉鎖症の方に試していただき良好な聞こえと高い満足度が得られました。

軟骨伝導補聴器の臨床試験前後の装用補聴器の変化(Otology & Neurotology 39, 65-72, 2018)

両外耳道閉鎖症(Bilateral aural atresia)では骨導補聴器(BC)を装用していた例が多かったが臨床試験後はほとんどの例で骨導補聴器の装用を止め軟骨伝導補聴器(CC)の装用を継続した(A)。また片側の外耳道閉鎖症(Unilateral aura atresia)ではほとんどの例で補聴器を使用していなかったが、臨床試験後は軟骨伝導補聴器の装用を継続した(B)。

軟骨伝導補聴器は臨床試験を経て実用化し2018年11月13日に発売されました。軟骨伝導を用いた補聴器は、日本初はもちろん世界初の補聴器となります。フィッティングは通常の補聴器と比較して異なる部分も多く、知識と経験が必要で、取り扱い施設は限定されています(施設リスト参照)。当施設では専門の外来を設けて対応しています。軟骨伝導補聴器のフィッティングに関しては長年研究開発に取り組んできた我々の施設は世界をリードする立場にあり、必要とする難聴者に少しでも早く提供し役立ていただけるように普及活動に尽力しています。

軟骨伝導補聴器を説明し、試聴していただいている様子

軟骨伝導補聴器の試聴を希望される方へ

軟骨伝導補聴器を使いたい。試してみたい。

耳鼻咽喉科の病院を受診

可能であれば紹介状にこれまでの経過をまとめ、検査結果(聴力検査、CTなど)を添付していただき、それらを持って当院を受診してください。

受診した病院から当院の地域医療連携室にご連絡いただくことで診察の予約を取ることが可能です。

初診の方は月曜日に診察しています。診察予約、受診は月曜日に行うようにして下さい。

必要な検査を行ったのち、補聴器の試聴を行っていただけます。フィッティングは1,3,5週の月曜日の補聴外来あるいは木曜日の軟骨伝導補聴器外来で行います。

人工内耳

※小児の人工内耳については別項参照

補聴器で効果不十分な例では人工内耳の手術を行っています。手術の適応のある方はリハビリを担当する言語聴覚士から専用の時間を設けて詳しく説明を受けていただきその上で手術を希望するか検討していただいています。入院は約1週間程度で術後2-3週間後に外来受診していただき音入れ(人工内耳ではじめて音を聞いていただく)を行います。その後は調整を定期的に実施しリハビリを行います。当院ではコクレア社とメドエル社の人工内耳を取り扱っています。

手術の様子

挿入後反応を確認している様子(NRT)

コクレア社製のインプラント

メドエル社製のインプラント

人工内耳の調整と効果を評価している様子

基礎研究

軟骨伝導聴覚

軟骨伝導とは

スピーカやヘッドホンなどから出た音、音は空気を伝わり鼓膜を、耳小骨を経由して内耳に達し知覚されます。この音が伝わる経路を気導と呼びます。別の方法として振動子を頭蓋骨に当てることで振動が内耳まで伝わり音を知覚することができます。この経路を骨導と呼びます。従来音の伝わる経路はこの2つに分類されてきましたが、2004年に細井(現在奈良県立医科大学学長)はある種の振動子を耳軟骨(特に耳珠など)に当てることで気導や骨導よりも良好な聞き取りが得られることが発見し軟骨伝導と名付けました。我々はこの現象に着目し、長年軟骨伝導聴覚とその臨床応用についての研究を行っていました。

軟骨伝導で音を呈示している様子

理論的な音の伝導経路

振動子を耳軟骨に接触させた場合の音の伝わる経路は理論的に図に示す①軟骨骨導経路②軟骨気導経路③直接気導経路が考えられます。仮に①の経路だけで音が伝わっているとすると骨導と、③の経路だけで伝わっているとすると気導と同じ経路であるといえます。これまで様々な検討を行った結果中低音域に関しては①、③ではなく②の経路が音の伝わりに大きな役割を果たしており、このことが気導、骨導とは異なる特徴を表す原因であると考えられました。

外耳道内の注水量と軟骨伝導閾値の変化(PLoS one 13, e0120135, 2015)

軟骨気導経路での音の伝わりは側臥位で外耳道に注水することで閾値は上昇するが、注水が軟骨部外耳道に達することで軟骨の振動が直接水に伝わるため閾値が低下する。一方軟骨骨導経路は注水の影響がなく、直接気導経路は注水量に関わらず閾値が上昇する。実際の測定で、0.5, 1kHzで注水量を増やすことによる閾値の低下を確認することができた。

軟骨伝導の特徴を生かすことで、新しい音響機器の開発が期待できます。その応用の1つが上述した補聴器ですが、それ以外にもスマートホンなどへの応用も可能です。しかしながら軟骨伝導は歴史が浅く不明なことがたくさんあります。全国的にも注目されており音響学会では2014年に軟骨伝導調査研究委員会が、日本聴覚医学会では2017年に軟骨伝導聴覚研究会が立ち上がりました。我々はこれからもオピニオンリーダーとしてこの分野の研究を推進していきたいと考えています。

骨導超音波補聴器

音が全く聞こえない、もしくはほとんど聞こえない状態であれば、補聴器をしても十分な効果を得ることはできません。そのような場合、音を聞くためには人工内耳の手術が必要です。そこでそのような最重度難聴者であっても使用可能な補聴器を開発するため、骨導超音波を利用した補聴器の研究を行っています。

骨導超音波補聴器

通常では音が全く聞こえない最重度難聴者であっても、超音波を骨導で与えると聞き取れる方がおられます。超音波を会話音で変調することで言葉の情報を超音波を用いて伝えることができます。これまでの基礎ならびに臨床研究で、健聴者では骨導超音波であっても言葉を聞き分けできることが明らかとなり、音が全く聞こえない最重度難聴者であっても健聴者には劣るものの言葉の聞き分けが可能であることが分かりました。さらにリハビリを行うことで骨導超音波語音の聴取能が改善することが分かりました。図に超音波補聴器の試作器を示します。実用化することができれば最重度難聴者であっても手術なしに利用できる補聴手段になると考えられます。

研究設備

Head and Torso simulatorを用いた測定

Microphoneを用いた外耳道内圧の測定

刺激音の発生装置

オシロスコープを用いた刺激音の評価

聴覚の研究を行うためには様々な音響機器が必要となります。当大学には長年聴覚の研究に精力的に取り組んできており、聴覚研究に必要な検査機器が充実しています。医療機器とは異なるこのような測定機器の使った研究については医師だけの力では難しい部分もありますが、我々の施設では工学系の研究者と共同研究で実施しており、より高度な研究課題に取り組むことが可能です。このような研究環境で得られた成果はこれまで数々の学会や学術誌で報告してきました。今後も聴覚および補聴器医療発展のため基礎ならびに臨床研究を進めていきます。

聴覚心理測定の様子

方向感の測定の様子