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腎細胞がん

腎臓はどんな臓器?

腎臓の模式図

腎臓は腰の少し上の背中側(後腹膜腔)に位置し、左右一つずつあるソラマメ型をした臓器で、一つがおよそ150g程度の臓器です。尿を産生することが主な役割で、血液によって腎臓に運ばれる不要な老廃物や余剰な水分をろ過し排泄する、生命の恒常性を維持するために大変重要な臓器です(図1)。その他に、赤血球の作成を促すホルモンや血圧を調整するホルモン、骨を丈夫にするホルモンを産生し、ホルモン産生臓器としての働きもあります。

腎細胞癌とは?

腎細胞癌は腎臓に生じる癌で、腎実質の尿細管細胞に由来する悪性腫瘍です(図2)。同じく腎臓に生じる癌として、尿の通り道である腎盂に生じる癌(腎盂癌)とは癌の性質や治療が異なるため区別されます。なお、一般的に腎癌とは腎細胞癌のことをいいます。発症頻度は、人口10万人に対して6人程度で、50−70歳にかけて多く、がん全体のうちの約1%を占め、やや男性に多いことが特徴です。

症状は?

腎細胞癌の模式図

腎癌の3大症状といて血尿、腫瘤触知、疼痛が良く知られておりますが、近年では、これらの症状が揃うことは少なく、大部分は検診や他の疾患における腹部超音波検査(エコー)やCT検査において偶然発見されるもの(偶発がん)がほとんどで、早期がんで発見される患者さんが多くなってきています。逆に、肺や脳、骨に転移した癌が先に見つかり、その原発巣として腎細胞癌が見つかることも経験します。

診断は?

超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査を組み合わせて、臨床病期(腫瘍の広がりや進行度)を診断します(図3・4、表1・2)。画像検査で診断に至ることがほとんどですが、診断に悩む際には、生検検査も行う場合があります。また、現在のところ、腎細胞癌に特異的な腫瘍マーカーはありませんが、血液検査における炎症マーカー(CRP・赤沈・好中球/リンパ球比)が病状診断や予後の予測に補助診断として使用されることがあります。

CT(左:造影早期相、右:造影後期相)

CT(左:水平旦、右:冠状断)

腎細胞がんの進展度分類(TNM分類)

病気(ステージ)分類

治療は?

転移の有無によって治療の選択肢が異なってきます。また、転移がある場合は生命予後予測分類をもとに、選択する治療を考慮します(表3・4、図5)。

MSKCC分類

IMDC分類

病気ごとの治療アルゴリズム

転移のない腎細胞癌に対する治療は、手術療法(腎部分切除および根治的腎摘除術)、局所療法(凍結療法、ラジオ波焼灼術、動脈塞栓術)が行われます。また、転移のある腎細胞癌に対する治療は薬物療法が中心となります。原発巣(腎臓)に対する手術療法や転移巣に対する手術療法や放射線療法で生命予後や生活の質の改善が期待できる場合もあります。

ロボット支援下腎部分切除術

ロボット支援手術所見

小径腎細胞癌の多くに対しては腎部分切除術を選択します。腎部分切除術は腫瘍の箇所を部分的に切除し、腫瘍のない正常な腎実質は温存する手術です。根治的腎摘除術と比較しても、癌の制御は劣らず、合併症の低減や腎臓の機能温存が可能といわれています。また、これまで腎部分切除術は開腹手術や腹腔鏡下手術が主流でしたが、ロボット支援手術の導入により腎部分切除のほとんどをロボット支援下に行っております。ロボット支援下腎部分切除術は腹部に直径5〜12mm程度の穴を5か所前後あけて、細長い鉗子を用いて手術を行います。ロボット支援下腎部分切除術は、腹腔鏡下手術のメリットである、「少ない出血量」「小さな創で術後の痛みが少ない」「早期の退院と社会復帰」を可能としながら、「鉗子の動きの制限」や「手術技術の習得の難しさ」を克服した手術方法です(図6)。
現在は、従来は部分切除術が困難と考えられていた難しい位置にある腫瘍や大きな腫瘍に対して、腎臓の機能温存が必要な場合は、ロボット支援下腎部分切除術を行っていることもあります。

腹腔鏡下根治的腎摘除術

腹腔鏡下手術所見

腎部分切除が難しい大きな腎細胞がんに対しては根治的腎摘除術を行っています。多くは腹腔鏡下手術で行っていますが、非常に大きな腫瘍や静脈内腫瘍塞栓(腫瘍が腎静脈内から心臓に至るまで血管の中を増殖しているもの)を伴う場合には開腹手術を行っています。腹腔鏡手術は腹部に直径5〜12mm程度の穴を4か所前後あけて、細長い鉗子を用いて手術を行います(図7)。腹腔鏡下手術は前述の通り、「少ない出血量」「小さな創で術後の痛みが少ない」「早期の退院と社会復帰」がメリットとなります。

局所療法

凍結療法やラジオ波焼灼術、動脈塞栓術は小径腎細胞癌に対する低侵襲治療として位置付けされています。小径腎細胞癌に対する標準治療は腎部分切除術となりますが、高齢者や重篤な合併症のため全身麻酔下の手術が困難な場合や手術を希望しない場合には凍結療法やラジオ波焼灼術、動脈塞栓術が選択されます。局所療法は泌尿器科だけでなく放射線科と協力して行います。凍結療法とラジオ波焼灼術は超音波検査やCT検査を同時に行いながら腫瘍の位置を確認し、経皮的に針を穿刺し、治療します。凍結療法は特殊な機会(アルゴンガスで組織を凍らせる装置)が必要で、当院には設備が完備していないため、奈良県では市立奈良病院のみ行うことが可能であり、連携して治療を行っています。ラジオ波焼灼術は穿刺した針から高周波電流により発生した熱で腫瘍を死滅させます。ただし、現在のところ腎細胞癌では保険診療が認められていません。動脈塞栓術は血管内治療でレントゲンの下で治療を行います。腫瘍を栄養する血管を人工的に閉塞させることで腫瘍を死滅させます。治療後、一時的な発熱や痛みが生じることがあります。

転移巣切除術

転移のある腎細胞がんの場合薬物治療が基本となりますが、腎細胞癌の場合転移巣が完全切除可能であれば予後の改善や根治が期待できます。肺転移やリンパ節転移、膵転移、肝転移、副腎転移、骨転移、脳転移など、切除可能な病変であれば他科と連携し転移巣切除を行うことがあります。

転移巣定位放射線療法

腎細胞癌はもともと放射線治療の効果が乏しいとされ、根治的な治療として放射線治療が選択されることはありませんが、脳や骨の転移巣に対しては、癌の進行を抑えたり、痛みを和らげることが期待でき、生命予後や生活の質の改善へとつながります。

薬物治療

主に転移のある腎細胞癌の場合に選択されます。また、大きな腎細胞癌や大静脈内進展、転移のある腎細胞癌に対して手術治療を行う前に、癌の大きさを小さくしたり、癌の広がりを縮小するために行われることがあります。薬剤選択の際には腎細胞癌の組織型(淡明細胞型腎細胞癌とそれ以外)をもとに行われます(表5・6)。

腎細胞癌の主な組織型の分類

進行腎癌に対する主な薬物療法の選択基準

薬物治療の種類としては大きく、分子標的治療、免疫チェックポイント阻害剤療法、サイトカイン療法の3つに大きく分類されます。分子標的療法は癌細胞に発現する分子を標的として癌細胞を死滅させる治療で、薬剤についてはどの分子を標的とするかでいくつかの種類があります(図8、表7)。

分子標的薬の作用メカニズム

主な分子標的薬の種類

免疫チェックポイント阻害剤療法は、癌によってブレーキをかけられている患者さん自身の免疫力を回復させ癌細胞を駆逐していきます(図9、表8)。

免疫チェックポイントの阻害剤

免疫チェックポイントの阻害剤の種類

サイトカイン療法とは、さまざまな細胞から分泌される生理活性タンパク質(サイトカイン)のなかで免疫細胞を活性化させる働きをもつサイトカインで、患者さん自身の免疫力を活性化し、癌細胞を攻撃します。

その他の治療

小径腎細胞癌に対しては手術などの治療をせず、CT検査などの画像検査を定期的に行いながら、癌の状態などの経過を観察する監視療法が行われることがあります。特に、高齢者や重篤な合併症のため治療が難しい場合は選択肢となります。また、癌が進行しいたるところに転移巣が生じた場合や転移のない腎細胞癌でも積極的治療を希望されない場合は緩和ケア(Best supportive care: BSC)が治療として選択されることがあります。緩和ケアとは、生活の質を維持するために、癌に伴う身体的および精神的、社会的苦痛に対する症状を和らげ、残りの余命を全うする治療です。緩和ケアチームや精神科と協力して治療しています。現在日本では二人に一人が何らかの癌でなくなるといわれています。緩和ケアは残された時間を患者さんらしく過ごすための大変重要な治療です。