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 vol4 西和田敏先生(消化器・総合外科学 助教)

 Research Story, vol.4
奈良県立医科大学 消化器・総合外科学 助教 西和田敏先生
【Annals of Surgery】2021 Jun 16.
doi:10.1097/SLA.0000000000004993.
PMID: 34132691

                                                                            西和田先生証明写真

外科学分野のトップジャーナルである【Annals of Surgery】(IF=12.969)に、西和田先生の論文がアクセプトされました。論文の概要や、本研究を進めてこられた動機、プロセスについてお伺いすると同時に、研究者としてスタートされた経緯などをインタビューさせて頂きました。

 

 

➀今回の論文の骨子について専門領域外の方でも理解できるようにご紹介いただけますか。


→膵癌は最も高悪性度の癌の一つで、膵癌に対する外科治療は唯一の根治治療です。しかし膵切除は非常に高侵襲治療である上に、術後の再発率は残念ながら高い数値となっています。もし手術後のリスクをあらかじめ知ることができれば、化学療法をすべきか、手術をすべきかどうかなど、より効果的な治療法を選んでいくことが可能になります。また現在主流となっている術前治療の効果を見ながら、どのタイミングで手術をすべきか判断するための指標にもなります。今回の論文では、膵癌患者さんの血液に含まれるエクソソーム内のマイクロRNA(exo-miRNA)に着目し、予後のリスクを判定する方法を見出したことを報告しています。癌患者さんの血液には癌細胞由来のエクソソームが多く含まれ、その中にはmiRNAなどの核酸やタンパクが内包されています。本研究では、シークエンスにより発現が確認できた数千個のmiRNAをバイオインフォマティック解析によって分析し、早期再発をした症例と長期無再発の症例との間で有意に差があるexo-miRNAを見出しました。統計的手法を用いて有効なexo-miRNAを最終的には6個まで絞り込み、それぞれの寄与度を反映した膵癌再発リスクの指標(exo-miRNAパネル)を導出しました。これを複数の医療施設から収集した血液検体で検証することにより、手術前の血液検体による手術後リスクの予測が可能であることを示すことができました。

 


西和田先生インタビュー時

                         (西和田先生)

                                                                                                          
②この研究が評価されたポイントをご自身はどのように考えておられるでしょうか。

 

→日々の臨床現場での切実なニーズに即した研究であったこと、つまり誰もが迷う、手術をするか否かの判断をする際の指標を科学的に示したことだと思います。膵癌は術前に化学療法等の治療を何か月も行って、その後手術を行っても短期間で再発してしまう例も多くあります。腫瘍マーカーや腫瘍のサイズなどから総合的に手術適応を見定めていますが、限界があり、新たな観点からの判断材料となる指標が求められていました。本論文で見出したexo-miRNAパネルをバイオマーカーとして用いることで、手術後の状況を予測し、手術のタイミングを判断できるようになります。まだまだ不十分ではありますが、このことは膵癌研究・治療に一石を投じたと思います。

 

③先生は昨年に引き続き海外のトップジャーナルに論文が掲載されます。自治医科大学卒業後は、奈良県で9年間地域医療に携わられていたわけですが、研究者としてのスタートはどのようだったのでしょうか。

→当初は総合医・外科医として臨床に関わることを目指していましたので、基礎研究をすることは全く考えていませんでした(笑)。しかし、実臨床で感じた疑問を通して臨床論文を書くということは積極的に行っていましたし、医大に戻れば、基礎研究を行い論文を書き博士号を取るということは意識していました。医師8年目で義務年限最後2年間のへき地診療所に赴任する前に、庄先生(当時消化器・総合外科学准教授、現在は同教授)から、この2年間を活用して研究を始めたらどうかと助言を頂きました。テーマ設定についても様々ご指導を頂き、研究者としての活動を本格的にスタートさせました。大学時代の先輩が同じ講座におられたのも心強かったです。夜に山から降りてきての研究生活は大変でしたが、充実した日々でもありました。



④ 留学中のことについてお伺いします。米国のBaylor University Medical Centerへ留学されていますね。留学先で苦労されたことや、また得たことについて教えていただけますか。

→はい、ダラスのBaylor University Medical Centerへ留学しましたが、2年目にラボの教授がカリフォルニア州にあるBeckman Research Institute of City of Hopeへ移ったため、私も異動することになりました。このラボは、消化器癌のバイオマーカー研究のためのサンプルや臨床データを世界中から集めています。それらの資料とともに臨床医、研究者を受け入れて、研究を加速させるということを行っており、日本の大学からも多くの臨床医が留学していました。ちょうど膵癌に関する大型研究資金を獲得されたこともあり、積極的に膵癌治療を行っている当教室、庄先生のところへ共同研究のオファーがありました。留学した当時は、血液を使った研究は私自身経験がなく、何をターゲットとするかなど、現地のメンバーと日々英語でディスカッションしながら方向性を決めていく作業は容易ではありませんでした。ラボのスタッフは主に基礎系の研究者であるため、臨床については知見がありません。更に、すでに決定している大型研究資金の研究テーマに、自分のやりたい研究をどう混ぜ合わせてすり合わせていくかについて、交渉しつつ知恵を出さなければなりませんでした。幸いなことに、ラボでは、当時血液中のエクソソームに注目しており、世界中から集めたサンプルを保有していました。エクソソームの中にあるmiRNAをターゲットにするという事が決まった後は、順調に研究を進めることが出来ました。研究に没頭できる時間が確保できたことも、留学中の貴重な体験です。



⑤今後の先生の目標についてお伺いしてもよろしいでしょうか。研究内容等については差支えのない範囲でお話しいただければと思います。


→まずは前向き研究にて検証を行うこと、さらに、特に手術の可否やタイミングの判断が難しい局所進行膵癌の化学療法著効例において、このマーカーが有用かどうかを検証したいと考えています。低侵襲の血液というサンプルを用いることで、複数の時点での検査が可能となります。そのため、手術前にリスクを知ることに加え、癌の状態とマーカー値の連動性についても研究を進めていくことで、より詳細な情報を得るなど、治療選択のために役立つ指標の高度化を図っていく事などに取り組んでいきたいと思っています。また、この研究結果ではまだまだ不十分であることは明白なので、miRNAとct-DNAなどの複数の分子を用いた複合的マーカーへの展開や、他の癌への展開なども考えられると思います。
また、留学中に経験しましたが、臨床のニーズと基礎の連結、普段の何気ない会話、ここから何かが生まれる。本学でも同様の取組ができれば様々な可能性が広がると思います。

 

                 垣脇さん 

                                                         (インタビュワー 垣脇URA)

 


⑥最後に、本研究を進めるにあたって多くの方々のご協力があったかと思いますが、特に感謝をお伝えしたい方があればお聞かせください。


→この研究、留学の機会を与えて頂きました庄 雅之教授を始め、消化器・総合外科学教室の同門の先生方、ラボで直接ご指導頂いたAjay Goel教授と同僚の友人達、共同研究にご協力頂いた全ての先生方・スタッフの方々、そして毎日励まし、支え続けてくれる家族に、この場をお借りして深く感謝を申し上げます。

以上
 

(インタビュー後記)
昨年に続いて今年もトップジャーナルに論文がアクセプトされています。研究と臨床と教育、何事も手を抜かれないとの印象を受けました。ハードな日々をお過ごしですが、いつお会いしてもにこやかです。海外留学中に経験された臨床のニーズと基礎の連結、本学でもぜひ実現したいですね。

 

      インタビュアー : 研究力向上支援センター 特命教授・URA 木村千恵子
                                                                                           URA 垣脇成光

 

【Annals of Surgery】:米国外科学会の公式機関誌であり、世界でもっとも頻繁に参照・引用されている外科学雑誌である。(外部サイトへリンク)

【西和田先生の論文】:【Annals of Surgery】2021 Jun 16.
                                  doi:10.1097/SLA.0000000000004993. PMID: 34132691(外部サイトへリンク)

 

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